「それで、アンタは何でその衣装にしたのよ。もっとあったでしょうに。キサがシンデレラだったから、アンタはてっきり白雪姫辺りにでもなるんだと思ってたわよ」
「いやいや向いてないよ! 人魚姫もいいかとは思ったけど、流石に貝殻の水着で校内歩いたら通報されると思ったから、妥協してこれになったんだ……っ」
悔しそうにそう言う葵に、ツバサは呆れてしまった。
「はあ。だから、なんでアンタはそんな童話ばっかり選ぶのよ」
「何言ってるんだツバサくん! わたしの大好きなお話なんだぞ⁉︎」
「あーそー」
「むっ! そ、そもそも、わたしが選びに選び抜いた童話がなんなか、君にわかるのかい!」
ツバサは「そんなのわかるに決まってるだろうが」と男の声で言いながらデコピンしてきた。
「(ああ、ダメだ。こっちのツバサくんにはどうも慣れない)」
そう思っていたら、ツバサが葵の衣装を指差しながら童話をズバリ当ててきた。
「竹籠のマッチ。これはマッチ売りの少女」
「そうだね?」
ツバサは籠を指差した後、今度は葵のネックレスを指差す。
「それは多分、ガラスの少女じゃないかしら」
「おー!」
そしてツバサは最後に葵の靴を差して。
「それはそのまま、あかいくつ。違うかしら?」
「すごーい! よく知ってるねツバサくん!」
葵は手を叩いてツバサを褒めるが、彼の表情は真面目なままだ。
「それで? 敢えてその童話にしようと思った理由は?」
ツバサが突っ掛かるのも無理はない。だって、この童話は取り用によっては全て、悲しい結末に終わってしまうから。
「みんなは悲しいって言うかもしれないんだけどさ、わたしにとっては、ああ、なんて幸せなんだろうなって思ったんだよ」
葵はツバサの顔を覗き込むようにそう話す。そして、目を閉じたまま、童話の話をする。
マッチ売りの少女は、少女を愛してくれたたった一人のおばあさんはもう死んでいなかったけど、最後は一緒に天へ昇っていく。
ガラスの少女は、少女の体は粉々になってしまったけれど、心優しい少年達が少女を失ったことをいつまでも悲しまないようにと、神様が星の川として天に住まわせてくれた。
そしてあかいくつは、最後には少女はちゃんと心を入れ替えて、ちゃんと気づくことができたから神様の元に辿り着けた。



