すべてはあの花のために③


紫苑(しおん)さーん。今帰ったでー」


 ――――入った瞬間、息を呑む。
 彼がそう言って開けた戸の向こうには、恐らくこの組の男衆全員が、壁際にぎっしりと並んでいたのだ。
 しかもその目は、人を何人も殺しているような目。


「(……そうか。彼らは……)」


 殺したくてしょうがないんだろう。
 そしてマサキ側の人たちではない。完全に葵の敵だ。

 でも、そんな目を葵に見せてくるんだ。それだけ彼のことが、大好きってことだ。


「(それなら大丈夫だ)」


 葵は目の前の一段上に座っている、高そうな着物に身を包んだ人を真っ直ぐ見つめた。


「(もっとガタイがよくて、古傷があるような人をイメージしていたけど……)」


 そこはやっぱり彼の父親だ。背筋はすっと伸びてはいても、あまい顔立ちで色香が漂う。
 そんな彼も、こちらを真っ直ぐに見据えていた。


「(見た目はそう、なんだけどね……)」


 彼から発せられるのは殺気のみだ。葵のことを見極める必要もないと、そう思っているらしい。


「(相手は組の親分。言葉よりも実力を見せた方が早そうだ)」


 葵はぐっと手に力を込める。
 こんな奴らに負けることはないだろうが。


「(彼らはカナデくんの大事な家族だ。でも、こんなことは間違ってる。……それをわからせるには、拳と拳でやり合うしかない)」