「紫苑さーん。今帰ったでー」
――――入った瞬間、息を呑む。
彼がそう言って開けた戸の向こうには、恐らくこの組の男衆全員が、壁際にぎっしりと並んでいたのだ。
しかもその目は、人を何人も殺しているような目。
「(……そうか。彼らは……)」
殺したくてしょうがないんだろう。
そしてマサキ側の人たちではない。完全に葵の敵だ。
でも、そんな目を葵に見せてくるんだ。それだけ彼のことが、大好きってことだ。
「(それなら大丈夫だ)」
葵は目の前の一段上に座っている、高そうな着物に身を包んだ人を真っ直ぐ見つめた。
「(もっとガタイがよくて、古傷があるような人をイメージしていたけど……)」
そこはやっぱり彼の父親だ。背筋はすっと伸びてはいても、あまい顔立ちで色香が漂う。
そんな彼も、こちらを真っ直ぐに見据えていた。
「(見た目はそう、なんだけどね……)」
彼から発せられるのは殺気のみだ。葵のことを見極める必要もないと、そう思っているらしい。
「(相手は組の親分。言葉よりも実力を見せた方が早そうだ)」
葵はぐっと手に力を込める。
こんな奴らに負けることはないだろうが。
「(彼らはカナデくんの大事な家族だ。でも、こんなことは間違ってる。……それをわからせるには、拳と拳でやり合うしかない)」



