葵がにっこりそう言うと、彼はお手上げした。
「その通りです。お嬢ちゃん記憶力半端ないな。それに、洞察力推理力、気配も感じ取れるし、何せ腕っ節が強い。お嬢ちゃんあいつと結婚して嫁ぎに来てやー。そしたら将来安泰――」
「そんな将来。わたしには有り得ませんので」
食い気味の葵に、彼は目を見開いたあと、怪訝な顔をして「どういうことや」と聞いてくる。
「結婚するつもりはないと、ただそれだけですよ?」
葵がにっこり笑顔を付けてそう言うけれど、彼は納得してないようだった。
「きっとあなたはもうわかっているのでしょう? わたしが、友達を裏切るなんてことはありません。わたしは、そんなこと絶対にしたいとは思いません」
彼の目を見てそう言うと、彼は目を閉じて「そうか」と安堵の声を漏らした。
「俺の目に狂いはなかったな。よかったよかった。それで? お嬢ちゃんがここまで来てくれるっちゅうことは、すくってくれるんやろ? “あいつら”を」
「もちろんです! 彼も親父さんも、ついでにそのせいで悩んでいるあなたたちも! わたしがみんなまとめてすくってあげますよ! 金魚すくいは得意です多分!」
そんなことを言う葵を見て、彼は初めて本物の笑顔を見せてくれた。
そうして彼はもう一度車のエンジンをかけ、黒い車体を動かす。
「それじゃあ屋敷着く前に、あいつらの昔話でもしようか。約束やしな」
「はい。安全運転でお願いします」
「ははっ」っと笑ってから彼が話し出すのは、彼が裏切られた話――――。
「あいつは、……カナは【暴力団】の子や」



