すべてはあの花のために③


 信号が赤になり、車体が止まる。


「何にも知りませんよ? ただそうなんじゃないかなー? と思っただけで」

「じゃあそう思うた理由を教えてくれ」

「えー。違うかもしれないのに」

「教えてくれたってええやん。それ教えてくれたら特別に、依頼主とカナの昔話聞かせてあげよーかなー思うとっ――」

「そうですねーわたしが思ったことはー」

「切り替え速いな」


 信号が青に変わって、車体がまた動き出す。


「だって、わたしは彼らをすくいたいんですから。本当はカナデくんから聞けたらと思ったんですけど、そうも言っていられなくなりました。……だってあの子、めっちゃくちゃ弱虫なんですもん! いっつもいっつも会う度、いつぶん殴ってやろうかと思ってるんです!」

「いや、それはしょっちゅうやられてるって聞いてるけど」

「まあそれはさておいて。……『人を警戒してしまうんだ』って、教えてくれたんです。相手が自分に近づかせないようしていたのを知りました」

「そーか」

「それから彼は、傷にすごく敏感です。異常なほどに心配されました。大したことがないって言っても、彼のせいじゃなくても、自分を責めているように心配するんです」

「うん。そうやろうな」


 彼は一度路肩に駐車した。どうやら葵の話を真剣に聞くようだ。


「体育祭の時、さっきのビビり三人組に襲われました。わたしの中では通称『ロケ〇ト団』と呼んでるんですけど……」

「お嬢ちゃんってそんなキャラなんやな。何となくは聞いとったけど」


 彼は顔を引き攣らせている。


「そこで、彼らからいろんな情報を聞きました。それはあなたもご存じだと思いますが」

「そうやな。あいつらビービー泣いて帰ってきよったからなー」

「そ、そうですか(ちょっとやり過ぎたかな……)そこで知ったのは、イカレてる依頼主がいることと、前はやり過ぎたこと」

「そうやな。俺もそう思うとる」

「でも、そうしたのはあなたたちなのでは?」

「俺らやない。やった奴は檻ん中や」

「……そうですか。言い方を間違えましたね。依頼主を『止めなかった』のはあなたたちでは? そして、依頼主を庇ったのも」

「否定はせん。……続き、話してくれ」


 まあ確かに、残された時間も少ない。彼らも焦っているのだろう。


「それから、あなた方に襲われましたね。それはもうコテンパンに」

「こっちがやられてもうたけどなー」

「ごほん。そ、それからわたしの命が狙われていることを知った彼は、わたしには絶対に近寄らなくなりました。送り迎えもですけど学校でも」

「そうかー。それはそうなるかー」


 彼は頭をガシガシと掻いている。少し、申し訳なさそうに。


「まあそうなるでしょう。あなたたちはどうせ、彼の後でもつけていたんでしょう? あとわたしも。そうですよね?」

「は? あいつから聞いたんか?」

「いえ? でもわたしの後をついてきてる気配があったので、そうなのかと思って」