「…………よし。ここまで来たらええか」
「待て柾!」
マサキと呼ばれた関西弁の男は、裏門近くに止めていた車へ向かおうとしていた。
「あ? どうしたんカナ。お前が出て来るなんて……今日は槍でも降るんかいな。天気予報見るの忘れたわ」
「アオイちゃんを離せ」
ふざけた口調のマサキ。けれどカナデの方はプッツン来ているらしかった。
「……お前のそんな目え見るんは、あれ以来やな」
「早く離せって言ってんだよ!」
何かをつぶやくマサキにカナデは飛びかかる。しかしその雰囲気に逸早く気付いた小さな人影が、カナデの前に立ち塞がった。
「――え。……アオイ、ちゃん……?」
カナデの前に手を突き出したのは、今の今までマサキに担がれていた葵だった。
「カナデくん。この人に手を出すのはわたしが許さない」
葵の鋭い目付きに、カナデは一歩後退る。
「……は? 何、言ってんの。気がついたなら早くこいつから離れ――」
「それはできない」
「――っ! なんで!」
「それはなあカナ。お嬢ちゃんが俺に『連れてけ』って言ったからや」
「そういうことだ」
話すことなどないと言いたげに、葵とマサキはカナデに背を向けて車に乗り込もうとする。
「……ッ、アオイちゃん! どうしてそんなことするの! 殺されるよ! お願いだから戻って――」
「そうだね。そうかもしれない」
葵は一度立ち止まり、振り返らずにそんなことを言う。
「っ。お願いだから! アオイちゃんは生きてよ! お願いだから。こっちに帰ってきて……!」
「君はそれでいいのか」
そうしてやっと振り向いた葵は、人一人殺していそうな眼光でカナデを睨み付ける。
「あおい、ちゃん……」
カナデは体が動かなかった。言葉を発することも、息をすることさえ難しい。
「これはわたしが好きでやっていることだ。カナデくんには関係ない」
「――――」
「『親』に自分の未来を捕らわれてるからって、諦めきってる君なんかの傍にいるつもりはない」
「――ッ!!」
葵はそう言い放ち、マサキとともに真っ暗な車に自ら乗り込んだ。
動き出した車はカナデの前で一度止まった。
「お前には言っとこか。お嬢ちゃんの命は今日までや。……そうやなあ。あと二時間弱ってとこか」
「ほなな」と、車は走って行ってしまった。
カナデは葵に睨まれた時から、一歩もそこから動くことができなかった。



