葵は会場に戻ろうとしたけれど、座り込んでいる彼がそれを阻止するように、葵の手を取る。
「どうされ――っ、んんっ」
その手を引き寄せられた勢いで彼の胸の中に倒れ込む。掴まれていない方の手で上を向かされ、深く口付けが落ちた。
腕を掴んでいたはずの手はいつしか腰にまわり、もうこれ以上くっつけはしないのに、ぐっと力を入れて葵を抱き締める。まるで、まだ行かないでと駄々を捏ねるように。
彼はまた深く繋がろうとした。それでもすぐ限界になって、彼の胸をとんと押し返す。でもやっぱり離れたくないみたいで。
「……ごめん。もう、すこしだけ……」
またキスの雨が降る。
葵はもう力が入らなくて、彼に身を委ねるしかなかった。
しばらくして、彼は名残惜しそうに離れていった。
「……どう、したんですか? さみしかった?」
「ははっ。……そうかも、しれません」
彼は葵を両手でぐっと引き寄せる。
「ここで離してしまうと、もうあなたに会えないような気がする。消えてしまいそうな気がする」
「……まだ、だいじょうぶですよ。でももしよかったら。ずっとわたしのこと。見ていてくださいね」
葵はそんな彼の背中を、ゆっくりと摩ってあげる。少しでも安心してもらえるように。
彼は胡座の上に葵を乗せてから、強く強く抱き締めた。
「……っ。もちろん、です」
――――苦しそうな声で。



