すべてはあの花のために③


 葵は会場に戻ろうとしたけれど、座り込んでいる彼がそれを阻止するように、葵の手を取る。


「どうされ――っ、んんっ」


 その手を引き寄せられた勢いで彼の胸の中に倒れ込む。掴まれていない方の手で上を向かされ、深く口付けが落ちた。

 腕を掴んでいたはずの手はいつしか腰にまわり、もうこれ以上くっつけはしないのに、ぐっと力を入れて葵を抱き締める。まるで、まだ行かないでと駄々を捏ねるように。
 彼はまた深く繋がろうとした。それでもすぐ限界になって、彼の胸をとんと押し返す。でもやっぱり離れたくないみたいで。


「……ごめん。もう、すこしだけ……」


 またキスの雨が降る。
 葵はもう力が入らなくて、彼に身を委ねるしかなかった。

 しばらくして、彼は名残惜しそうに離れていった。


「……どう、したんですか? さみしかった?」

「ははっ。……そうかも、しれません」


 彼は葵を両手でぐっと引き寄せる。


「ここで離してしまうと、もうあなたに会えないような気がする。消えてしまいそうな気がする」

「……まだ、だいじょうぶですよ。でももしよかったら。ずっとわたしのこと。見ていてくださいね」


 葵はそんな彼の背中を、ゆっくりと摩ってあげる。少しでも安心してもらえるように。
 彼は胡座の上に葵を乗せてから、強く強く抱き締めた。


「……っ。もちろん、です」


 ――――苦しそうな声で。