だからか、素直な気持ちがこぼれ落ちていく。
「だから、恋? してみるのもいいかなって。わたしには時間がないから、そんな資格もないと思ってたんですけど……そんなことをしてみてもいいかなって。一人で楽しむ分には罰は当たらないかなって」
結婚はできない。恐らく恋人になることも。それだとただ相手が苦しいだけだから。
「でも、人を好きになるのは決して悪いことではないですもんね。どうしてこんなに頑なだったんだろう。……ふふ。頑固親父っていうのも、あながち間違ってないかも」
「……え。ええ?!」
「時間がないので結局は何もできないに等しいですが。それでもわたしは、少しの間でも幸せになりたい。……そう思わせてくれたのは他でもない。ただ一人、あなただけ」
葵は、彼の頭をぎゅっと抱きかかえた。突然の行動に、彼は少し動揺しているみたい。
「……苦しい?」
「あ、ある意味……」
葵はクスッと笑いながら、こつんとおでこ同士を合わせる。
「……どう、したんですか」
少し照れながら聞いてくる彼につい笑ってしまうけれど。
それでも伝えたい。今の自分にできる、最大限の感謝。
「わたしのことを、見つけてくれてありがとう」
「――!」
彼はビクリと震えた。
それでも葵は、感謝をやめなかった。
わたしと、出会ってくれてありがとう。
わたしと、お話ししてくれてありがとう。
わたしのことを、見ていてくれてありがとう。
……わたしのこと、愛してくれてありがとう。
「本当に、ほんっとうに。ありがとう」
とびきりの笑顔で。
「――――……」
彼は一筋の涙を流しながら、葵をずっと見つめていた。だから、きっと伝わったのだと思う。
本当は名前を聞きたかったけれど、『仮面舞踏会』ではタブー。それに、最後まであなたは仮面を取らなかった。だから、今のあなたには今しかお礼ができない。
「わたしをここまで動かしてくれたこと。本当に感謝しています。だからちゃんとお礼がしたかったんですけど……こんなもので、申し訳ありません」
彼は少し苦しそうに。でも「十分です。ありがとう」と、笑って答えてくれた。
「今日、あなたに出会えて本当によかった。……こんなわたしの醜い感情を。聞いてくれて、本当にありがとうございました」
最後は笑って――……一礼。
「それではさようなら。名探偵燕尾服仮面さん」



