そのうち本当に限界が来てしまい、ぐったりと体を預けるように葵は彼に倒れ込んでしまった。心臓が早鐘を打ってるのが聞こえる。一生懸命息を整えようとする葵を抱き抱えながら、彼はゆっくりとしゃがみ込んだ。
「……気持ちよかった?」
「――……?!」
「何も言わないってことは、満更でもないと」
「あっ。……あなたはっ、とっても意地悪さんです……!」
「気づいてしまいましたか。実は私、好きな人にはとことん意地悪になる質でして」
「そ、そんな自信たっぷりに言わなくても……」
彼はクスッと笑った。
「でも、抵抗しなかったあなたもいけません。おかげで途中から暴走してしまいました」
「そんなの。わたしに言われても……」
「でも、とても可愛らしかった」
「――! ……うぅ……」
本当に愛おしそうにそう言うものだから、また葵の心臓が早鐘を打ち始める。顔が真っ赤になるのはもう止められそうにない。
「……あと30分か。結局、あなたの本当の気持ちは聞けても、考えは変えられなかった」
悔しそうに、葵の肩に彼の額が乗せられる。葵はそんな様子の彼に思わず笑ってしまった。
「何を仰っているんですか。わたしは、気持ちは変わったと。そう言ったでしょう?」
「でも、考えは変わらないのでしょう?」
落ち込んだ様子の彼に、どう伝えればいいか。言葉を探しながら答える。
「あなたが言ってくれた言葉、すごく嬉しかった。だから、今まで気づけなかった……ううん。多分気づいてたけど、誰にも言ってこなかった本音を言えることができた。だから今、とても気持ちが軽いです。……本当は。誰にも言うつもりはなかったのに」
彼の手が、葵の手を強く握り締めた。
「……わたしには。もう時間がないんです。だから。わたしには決められた道をいくしか。幸せになる方法はないんです」
至近距離で目が合って、お互い一瞬固まってしまう。
「それは、どういうことなんですか」
「……話せないんです。ごめんなさい」
葵の目からは、ぽろぽろと涙が零れていく。
「これだけのことをしていただいたのに。あなたの気持ちに応えてあげられないのは。本当に申し訳ないです。でも。心から嬉しいと。そう思えたのはあなたが初めてでした」
涙を目にいっぱい溜めながら、笑顔でそう伝える。すると彼の仮面の端から、静かに涙が伝っていくのが見えた。
「なんで。ですかね。本当に不思議。今まで、こんな感情……あんなことがあってからは、もう一生来ないと。そう、思っていたのに……」
「……あんな、こと……?」



