葵は、言葉をぐっと飲み込んだ。
「そんな未来なんて、努力すれば変えられるものじゃないですか?」
「変えられないんです!」
葵は声を荒げた。いくつもの視線を感じる。周りの人にも少しだけ聞こえてしまったようだ。
けれどそんな葵にも、彼はまるで諭すように、やさしく問いかけてくる。
「……それはどうして?」
「む、無理なものは無理なんですよ。そうだとわかっているから、今のうちにみんなを幸せにしてあげようと、自分でそう決めたんです」
葵は頭に血が上っていて、自分のことのように話しているのに気がつかない。
「それなら、あの花が大好きなたくさんの花に、自分の未来が幸せになるように手助けしてもらっては?」
「それはダメです! それだけは絶対にダメなんです!」
「それは何故?」
「こんな運命に、大好きな彼らを巻き込めない! ……ッ。だいすきな人たちにはっ。しあわせに。なってほしいんですっ」
彼は葵の頬にペちっと軽く音を立てて触れた。
「まるで、自分のことのように仰るんですね」
我を忘れてしまっていた葵は、ハッと目を見張る。
そんな葵を見ても、彼はやっぱりふわりと笑った。
「あなたはとてもやさしい方だ。彼女のことにも、彼女が歌った花のことにも、こんなに必死になって。あなたもまるで、彼女たちに自分を重ねているようですよ。……そんなあなたを、少しでも変えて差し上げたいと思う私は、きっともうあなたに巻き込まれているのでしょうね」
「え――あ、あのっ!」
彼は葵の冷たい手を取り会場を出ていく。止める葵の言葉も聞かずに。少し早歩きされるだけで、葵は息が切れそうになった。
「どっ、どちらへ……?」
つんのめりそうになりながら連れてこられたのは、誰もいない屋外。外はもう真っ暗で肌寒い。体育館からは、微かに漏れ出る楽団の素敵な音楽が聞こえていた。
「この辺りでいいでしょうか」
葵が尋ねるより先に、彼は片膝を突いて手を伸ばしてくる。
「よろしければ、一曲踊っていただけませんか?」
「え?」
葵は思わず目を丸くした。



