「彼女の特技も見事で。あの細腕のどこにあんな力があるのか」
「確かに、あれには驚きましたわ。わたしには到底あのようなことはできませんもの」
もう彼は、葵の話をする気満々らしい。話を逸らすのもわざとっぽくなってしまいそうだったので、照れながらも辛抱強く彼の話が終わるまで付き合うことにした。
褒められること自体は嬉しいし、やっぱり彼といると居心地がいい。彼の方は見られなかったけれど、この雰囲気を楽しむことに。
「極め付けは最後のドレス。私も、会場と一緒になって言葉が出ませんでした」
「そうですね。あの瞬間、とても彼女たちは幸せそうでした」
葵がそう言うと、「そうですね」と、彼は少し俯く。
束の間、沈黙が続いた。それが嫌だったとかではない。ただどうしてか、彼とはもっと話がしてみたくて。
「あなたはもし、自分に幸せが訪れないとわかっていたらどうしますか?」
やさしい彼の雰囲気のせいか、気付けば口が、ついそんなことを聞いてしまっていた。
「彼女、ライブで言っていましたでしょう? 『今この時幸せだって気持ちを、誰でもいい。たった一人でもいいから、分けてあげたい』と」
「ええ。そうですね」
葵はゆっくりと目を閉じた。
どうして彼には、こんなことを言ってしまうのかわからなかったけれど。
「その時の彼女の言葉を聞いて、思ったんです。もしかして彼女の未来には、幸せなんてものは来ないのではないのかと。だから彼女は、今のうちに幸せをわたしたちに分けてくれたのかなと」
彼は何も言わなかった。ただ、ステージの方を向いて話す葵の横顔を、じっと見つめているだけ。
「だから、もしあなたが彼女と同じように、未来に幸せがないと知っていたならどうするのかなって」
壁にもたれかかっていた彼はゆっくりと体を起こし、葵の視線を追うように、同じようにステージの方を見つめた。
「あなたがもし、彼女と同じように未来に幸せがないことを知っていたなら、彼女と同じようなことをされるのですか」
まさか聞き返されるとは思わなかった。
でも、答えは決まっている。
「そうですね。わたしも、彼女と同じように少しでも自分の幸せを分けたい。大好きな人たちの幸せが、わたしにとっての幸せですから」
だってこの話は、全て【葵】のことだから。
自分にはこの先の未来になんて、幸せなんて何もない。ただただ真っ暗になるだけ。そうなることは最初から決めていた。だから、変わることはないんだ。



