すべてはあの花のために③


 ――――女子更衣室。


「あっちゃん着替えないの?」

「ちょっと疲れたから、少し休憩してから行こうかなと思って」


 葵はというとまだ制服だった。キサは着々と準備ができており、後は髪型だけ。


「ちょっとハードだったもんね。ゆっくり休んで。あたしはちょっと用があるから先に出るけど、何かあったら呼ぶんだよー?」


 そんなことを言いながらちゃっちゃと髪型を整えたキサ。
 用事ってあなた、違うでしょ? 彼氏とダンス踊るんでしょう?


「いやあ愛してますねえ」

「あ、あっちゃん?!」

「いやいやいいんですよ? じっくり育んできてくださいな」


 冗談めいてそう言ったのだけれど、何故かキサは少し真剣な顔つきに。


「あっちゃんって、結婚願望とかないの?」


 ――いきなりどうしてそんな話?


「うーん。……そうだな。ないなこれは」

「今、なんで悩んだの?」

「悩んでないよ? ただ、わたしには誰かを幸せにすることなんてできないからね~。わたしと結婚する相手が可哀想だ~」


 葵はふざけた口調だけれど、キサの真剣な表情は変わらない。


「どうしてそんなこと言うの? あっちゃんは人を幸せにできる人だよ。現にあたしは今とっても幸せだ。なんで自分のこと卑下するの?」


 キサは静かに怒っていた。
 でも葵が返せるのは苦笑いだけ。


「ありがとうキサちゃん。キサちゃんがこの先ずっと幸せであることを、わたしは願ってるよ」


 葵は、支度ができたキサの服を掴み、扉へと足を進める。


「あっちゃん?! あたしはまだちゃんとあっちゃんから聞けてない! 話を聞いて!」

「そう言ってくれる人がわたしにもいてくれるんだと思うと。……ほんとうに。なみだがでるほど。うれしい」


 驚いて葵の顔を覗き込む。彼女の目からは、本当に涙が溢れ出ていたのだ。


「あっちゃん。どう、したの」


 でも葵は何も言わない。
 ただ涙を流しながら、にっこりと笑うだけ。


「幸せになって。ね?」


 背中をそっと押して部屋から送り出す時、小さくそう囁いて。