――――女子更衣室。
「あっちゃん着替えないの?」
「ちょっと疲れたから、少し休憩してから行こうかなと思って」
葵はというとまだ制服だった。キサは着々と準備ができており、後は髪型だけ。
「ちょっとハードだったもんね。ゆっくり休んで。あたしはちょっと用があるから先に出るけど、何かあったら呼ぶんだよー?」
そんなことを言いながらちゃっちゃと髪型を整えたキサ。
用事ってあなた、違うでしょ? 彼氏とダンス踊るんでしょう?
「いやあ愛してますねえ」
「あ、あっちゃん?!」
「いやいやいいんですよ? じっくり育んできてくださいな」
冗談めいてそう言ったのだけれど、何故かキサは少し真剣な顔つきに。
「あっちゃんって、結婚願望とかないの?」
――いきなりどうしてそんな話?
「うーん。……そうだな。ないなこれは」
「今、なんで悩んだの?」
「悩んでないよ? ただ、わたしには誰かを幸せにすることなんてできないからね~。わたしと結婚する相手が可哀想だ~」
葵はふざけた口調だけれど、キサの真剣な表情は変わらない。
「どうしてそんなこと言うの? あっちゃんは人を幸せにできる人だよ。現にあたしは今とっても幸せだ。なんで自分のこと卑下するの?」
キサは静かに怒っていた。
でも葵が返せるのは苦笑いだけ。
「ありがとうキサちゃん。キサちゃんがこの先ずっと幸せであることを、わたしは願ってるよ」
葵は、支度ができたキサの服を掴み、扉へと足を進める。
「あっちゃん?! あたしはまだちゃんとあっちゃんから聞けてない! 話を聞いて!」
「そう言ってくれる人がわたしにもいてくれるんだと思うと。……ほんとうに。なみだがでるほど。うれしい」
驚いて葵の顔を覗き込む。彼女の目からは、本当に涙が溢れ出ていたのだ。
「あっちゃん。どう、したの」
でも葵は何も言わない。
ただ涙を流しながら、にっこりと笑うだけ。
「幸せになって。ね?」
背中をそっと押して部屋から送り出す時、小さくそう囁いて。



