すべてはあの花のために③


 葵が茶碗を置くと、そこでいつもの雰囲気に戻った。


「この間さ、男たちに襲われただろ」


 口調はいつもの彼だが、動作は先程と変わらない。
 何を聞かれるんだろうと思っていたら。


「オレがちょっと暴走したの、お前覚えてるか」


 そういえば、あの時の彼は狂ったように男たちに殴りかかっていた。葵が頷くと、彼は自分を自嘲するのように笑った。


「今は大分落ち着いてんだけど、昔はもっと暴れてたんだ。お前も見たことあるだろ。オレのことビビってる奴がいたの。暴れてたせいで変に噂が広がったみたいでさ。……ま、それは全然いいんだけど」


 そう言って、彼は足下の畳を見つめながら。


「そんなオレを鎮めてくれたのが、アキと茶道なんだ」


 彼はそう言ってから、目を閉じる。もうこのことに関しては全て話すつもりはないのだろう。


「(だから彼は、アキラくんを異常に尊敬しているのだろうか)」


 そう思っていると、「もう足崩しとけ。ヒナタたちが菓子持ってきてくれたから、それでも食べとけ」と言われた。するとすぐに戸が開き、オウリがトテトテと菓子を持ってきてくれた。
 今すぐ抱き締めたい衝動に駆られたが、後ろにいた悪魔さんに睨まれたので、頑張って抑えておいた。
 どうやら彼も食べるのが待ち遠しかったらしく、葵の隣に座った途端、もぐもぐと食べ始めた。


「(あぁああ~写真撮りたいぃ~)」


 と、そんなことを思っていると、思い出した!


「(そういえば、体育祭の時の写真が貼り出されてるって言ってたな)」


 アキラにそう言われたのを思い出し、生徒会室へ行く前にそちらを先に覗いておこうと思った。


「三人がここにいるってことはさ、1-Sの出し物が茶事?」

「それもあるけど、華道もやってたり」

〈後は着物の着付けとかしてるよ♪〉

「そんな感じだ。ここの建物は1-Sが貸し切ってんだよ」

「そうなんだ。それで、茶道に長けてるのがチカくんだから、チカくんをメインにしておもてなししてるんだね~」

「オレだけじゃねえけどな。じゃなきゃオレが抜けた時大変だし」


 確かに。チカゼにしてはまともなことを言うので、葵はふくれっ面になる。なんだか今日は悔しいことだらけだ。


「オレ、なんか気を悪くするようなこと言ったか?」

「変人の考えてることがオレにわかるわけないでしょ」

〈ただ悔しかっただけだと思う〉


 何故こうも彼にはバレてしまうのか。精進せねば。