葵が茶碗を置くと、そこでいつもの雰囲気に戻った。
「この間さ、男たちに襲われただろ」
口調はいつもの彼だが、動作は先程と変わらない。
何を聞かれるんだろうと思っていたら。
「オレがちょっと暴走したの、お前覚えてるか」
そういえば、あの時の彼は狂ったように男たちに殴りかかっていた。葵が頷くと、彼は自分を自嘲するのように笑った。
「今は大分落ち着いてんだけど、昔はもっと暴れてたんだ。お前も見たことあるだろ。オレのことビビってる奴がいたの。暴れてたせいで変に噂が広がったみたいでさ。……ま、それは全然いいんだけど」
そう言って、彼は足下の畳を見つめながら。
「そんなオレを鎮めてくれたのが、アキと茶道なんだ」
彼はそう言ってから、目を閉じる。もうこのことに関しては全て話すつもりはないのだろう。
「(だから彼は、アキラくんを異常に尊敬しているのだろうか)」
そう思っていると、「もう足崩しとけ。ヒナタたちが菓子持ってきてくれたから、それでも食べとけ」と言われた。するとすぐに戸が開き、オウリがトテトテと菓子を持ってきてくれた。
今すぐ抱き締めたい衝動に駆られたが、後ろにいた悪魔さんに睨まれたので、頑張って抑えておいた。
どうやら彼も食べるのが待ち遠しかったらしく、葵の隣に座った途端、もぐもぐと食べ始めた。
「(あぁああ~写真撮りたいぃ~)」
と、そんなことを思っていると、思い出した!
「(そういえば、体育祭の時の写真が貼り出されてるって言ってたな)」
アキラにそう言われたのを思い出し、生徒会室へ行く前にそちらを先に覗いておこうと思った。
「三人がここにいるってことはさ、1-Sの出し物が茶事?」
「それもあるけど、華道もやってたり」
〈後は着物の着付けとかしてるよ♪〉
「そんな感じだ。ここの建物は1-Sが貸し切ってんだよ」
「そうなんだ。それで、茶道に長けてるのがチカくんだから、チカくんをメインにしておもてなししてるんだね~」
「オレだけじゃねえけどな。じゃなきゃオレが抜けた時大変だし」
確かに。チカゼにしてはまともなことを言うので、葵はふくれっ面になる。なんだか今日は悔しいことだらけだ。
「オレ、なんか気を悪くするようなこと言ったか?」
「変人の考えてることがオレにわかるわけないでしょ」
〈ただ悔しかっただけだと思う〉
何故こうも彼にはバレてしまうのか。精進せねば。



