すべてはあの花のために③


 キサのバラードが無事に終わり、次にカナデが歌いながらキーボードを叩いて音を奏でる。


「(やっぱり、すごい違和感があるんだよなあ)」


 その姿が、本当の彼ではないような気がして。書道と一緒で少しだけ苦しそう。だから歌う時は、バラードと決めているのかと思ってしまうほど。
 さっき、彼が歌った曲は失恋ソング。そして今歌っているのは、相手が最後、自分の元からいなくなってしまう悲しい唄だ。


「(なんで、こんな曲ばっかり……)」


 感情がこもりすぎていて、会場中で啜り泣く声が聞こえてくる。


「(まるで自分に、重ねるみたいな……)」


 もらい泣きしそうになるのをぐっと堪え、自分の番を待つ。すると、背中に温かいぬくもりを感じた。
 振り返るとそこには〈緊張してる?〉の文字。


「ううん。大丈夫だよ?」

〈あーちゃんはすごいね!〉

「え? 何が?」

〈あーちゃんの言葉に
 みんなが動かされてるよ!〉

「オウリくん……」

〈みんなでいいステージになるよう
 最後まで頑張ろうね!〉


 彼はそんな画面を見せながら、とっても笑顔になる。


「……オウリくんも、動かせた?」

〈もちろん!〉

「じゃあ今度、君の声、聞かせてね?」

〈任せて!
 それにはあーちゃんの協力が必要だけど〉

「お茶の子さいさいだ! 頑張ろうね!」

〈うん! おれも一緒に歌いたい!〉


 葵は心から喜んだ。自分の言葉が、彼の心を動かしたのだとわかったから。


 しっとりと、カナデのパートが終わる。


「ヒナタくん」

「はいはい」


「――行ってくる」そう言って二人はギターを身に纏い、三人に声を掛けてステージへ。
 葵は自分の位置に立つと、まずは隣のヒナタに視線を合わせる。彼はゆっくり頷いた後、葵のタイミングを待つ。葵は次にカナデを見る。彼も微かに笑って葵を待った。


「(さっきの嫌な感じは、もうしない……)」


 葵はゆっくり息を吸って吐いた後、一度目を閉じる。


「(みんなに、わたしの【願】が届いてしまうかな)」


 そうであったらいい。
 でも、そうであって欲しくもない。


「(でも、わたしの今のこの気持ちは、届くといいな)」


 カナデに合図を出し、前奏をお願いする。
 そして、葵とヒナタもゆっくりカナデの音に、静かに乗せていく。


「(このひとときだけの幸せよ。どうか……――届きますように)」