キサのバラードが無事に終わり、次にカナデが歌いながらキーボードを叩いて音を奏でる。
「(やっぱり、すごい違和感があるんだよなあ)」
その姿が、本当の彼ではないような気がして。書道と一緒で少しだけ苦しそう。だから歌う時は、バラードと決めているのかと思ってしまうほど。
さっき、彼が歌った曲は失恋ソング。そして今歌っているのは、相手が最後、自分の元からいなくなってしまう悲しい唄だ。
「(なんで、こんな曲ばっかり……)」
感情がこもりすぎていて、会場中で啜り泣く声が聞こえてくる。
「(まるで自分に、重ねるみたいな……)」
もらい泣きしそうになるのをぐっと堪え、自分の番を待つ。すると、背中に温かいぬくもりを感じた。
振り返るとそこには〈緊張してる?〉の文字。
「ううん。大丈夫だよ?」
〈あーちゃんはすごいね!〉
「え? 何が?」
〈あーちゃんの言葉に
みんなが動かされてるよ!〉
「オウリくん……」
〈みんなでいいステージになるよう
最後まで頑張ろうね!〉
彼はそんな画面を見せながら、とっても笑顔になる。
「……オウリくんも、動かせた?」
〈もちろん!〉
「じゃあ今度、君の声、聞かせてね?」
〈任せて!
それにはあーちゃんの協力が必要だけど〉
「お茶の子さいさいだ! 頑張ろうね!」
〈うん! おれも一緒に歌いたい!〉
葵は心から喜んだ。自分の言葉が、彼の心を動かしたのだとわかったから。
しっとりと、カナデのパートが終わる。
「ヒナタくん」
「はいはい」
「――行ってくる」そう言って二人はギターを身に纏い、三人に声を掛けてステージへ。
葵は自分の位置に立つと、まずは隣のヒナタに視線を合わせる。彼はゆっくり頷いた後、葵のタイミングを待つ。葵は次にカナデを見る。彼も微かに笑って葵を待った。
「(さっきの嫌な感じは、もうしない……)」
葵はゆっくり息を吸って吐いた後、一度目を閉じる。
「(みんなに、わたしの【願】が届いてしまうかな)」
そうであったらいい。
でも、そうであって欲しくもない。
「(でも、わたしの今のこの気持ちは、届くといいな)」
カナデに合図を出し、前奏をお願いする。
そして、葵とヒナタもゆっくりカナデの音に、静かに乗せていく。
「(このひとときだけの幸せよ。どうか……――届きますように)」



