すべてはあの花のために③


 何を話しているのだろうと、ヒナタがギターのチューニングを始めたところで、葵が戻ってくる。


「ヒナタくん、ギター触ってどうしたの?」

「オレも一緒に出る」

「え。バラードに?」

「ついでにカナも道連れにするつもり」


 彼はそう言って、今はまだ出番じゃないカナデに無線を飛ばす。


「……うん。じゃあそういうことだから、続けて出てね」

「ヒナタくんも歌うの?」

「そうなるね」

「カナデくんは?」

「入ってくるでしょ。なんだかんだ」


 無線を戻しながらヒナタはため息をついていたけれど、葵にとってこれ以上心強いことはない。


「ありがとうっ。最高の思い出だ!」


 満面の笑顔を残し、るんるんとアカネとオウリのところへ行った。


「……おーい。ヒナタ~?」

「……何」

「今の自分の顔、鏡で見てこいよ」


 チカゼがそう言うが早いか、ヒナタは猛ダッシュでカーテンに隠れた。


「お前そんなキャラじゃなくね?」

「ちょっと精神統一中なんで」

「一応それ、オレかカナが担当してんだけど」

「そんなん、あいつ次第でみんなこうなるでしょ」


 くるりと丸まったカーテンに、チカゼはふっとやさしい笑みをこぼす。


「お前に可愛いとこがあって、オレは嬉しい」

「うっざ」

「散々いじられてるからな。これぐらい我慢しろよ」

「何言ってんの。100倍返しだよ」

「……スンマセン。今のなしで」

「バッチリ録音したので無理です」

「はあ! 嘘だろ!?」


 精神統一が終わったヒナタは、カーテンから出てきてボイスレコーダーをチカゼの目の前に突き出す。


「おいおい。最初に『録音機器は回収します』って言っただろうが」

「それは観客」

「くっそ」

「オレに勝とうなんて一生無理な話だよ」


 そう言ってヒナタは、葵が歌う曲の練習をし始めたのだった。


「……ふはっ。すっげえテンション高」


 ヒナタの微妙に動く感情に、つい嬉しくなるチカゼであった。