すべてはあの花のために③


『はあーっ。ありがとー!』


 ここからはバラード。キサ、カナデ、葵の順番で一曲ずつ披露していく。キサと葵はギター、カナデはキーボードで弾き語り。
 まずはキサにバトンタッチして、みんなは左右の袖に捌ける。葵がいるのはオウリ、アカネ、チカゼ、ヒナタ側。少しだけ喋ってバラードを歌い始めたキサを、みんなで見届けた。


「(……何もない。気のせいだ。絶対大丈夫だ)」


 しかし葵はステージを見ず、観客席を睨むように見つめていた。


「おい」


 声を掛けてきたのはチカゼ、その横にはヒナタ。


「いるの」


 ヒナタがそう聞いてくる。でも気を遣わせたくない。


「ううん? ただ、どんな人がいるのかなって思って見てただけ」


 葵はキサのステージを見に行こうとするが、パシッとチカゼに手を掴まれる。


「ばっか。手に力入ってんぞ」

「武者震いだ」

「突っ込みにくいボケ」

「い、今から一人でステージ立たないといけないから。だから」

「バラード、お前飛ばせ」

「ううん、行くよ」

「何言ってんだよ!」


 チカゼは葵に掴みかかってくる。でも葵は笑顔で答えた。


「だってわたしは今、最高の思い出作ってる最中だからね!」


 そう言い残し、葵はチカゼたちの元を離れていった。
 それが葵の強がりだということを、二人が気づかないはずがなく。


「……ヒナタどうだ。お前なんかわかるか」

「いや。やっぱりあいつしかわかんないみたい」

「だよなーやっぱり。オレらが捜そうとしても駄目か」

「だからって、あいつ一人にはさせらんないけど」

「でも、あいつは出るって」

「オレも行ってくる」

「えっ?」


 そう言うや否や、ヒナタは予備のギターを準備し始める。


「おまっ、マジで言ってんの?」

「え? そうだけど」

「なんでギターも弾けんだよ」

「え? オレだから」

「歌うん?」

「……やっぱりそうなる?」

「いやそうだろ」