すべてはあの花のために③


 しかしそれ以降脳内からの返答はなく、葵は心の中で涙を流しながら、こほんと小さく咳払いをする。


「それで、どうしたの? みんなして」

「いやいや。お前こそ、こんなところにどうしたんだよ」


 チカゼにそう言われて、そういえばあの視線はもうなくなっていることに気づいて、なんだったのかと顔を顰めてしまった。


〈あーちゃん
 もしかして何かあったの?〉


 人の表情に敏感な子だ。すぐにそういうところに気づく。
 こればっかりは隠せそうにない。この三人にまず伝えておこう。


「今、ちょっと嫌な感じがして。それからちょっと逃げてきたら、ここに辿り着いたんだ」


 葵がそう言うと、三人はバッと茶室の戸を開けて外の様子を窺う。


「……くそっ。もう一般客が入ってきたのかよ」

「今は大丈夫なわけ」


 視線を窓の外に向けたまま尋ねるヒナタに、「今はもうないよ」と言っておいた。


「やっぱり、文化祭もただじゃ終わりそうにないな」

「(コクコク)」

「あんた、ちゃんと無線持ってる?」

「う、うん。それはバッチリだけど」


 でも、なんだこの感じ。これは多分、()関係じゃない気がする。
 だってそっちなら、視線は殺気で満ちて……。


「…………」


 葵の表情を読み取ったのか、オウリが素早く文字を打ち込む。


〈今までにない感じなの?〉


 そう言われて、葵は目を見開く。その文字に、チカゼとヒナタが反応する。


「……殺気じゃ、なかったと思う……」


 そう言うので精一杯だった。思い出しただけで気持ちが悪い。あの、どこまでも纏わり付く感じ。鳥肌がなかなか治まらない。