彼の指が唇を撫でた瞬間、カーテン越しに葵の脇腹へ何かが命中。
「ううぅ~……い、痛いよおぉ……」
「え? い、一体何があったのよ」
脇腹を押さえて蹲っている葵の横から、コロコロと転がって入ってきたのは、ドラムのバチ。
「ちょっと変態。オレの兄貴襲わないでくれる」
「ひ、ひなたくん。めっちゃ痛い……」
「時間迫ってるにも関わらずそんなとこで襲わないで」
「それにも関わらずわたしに説明求めてきたのはどこのどなたよ……」
「さーて、最後の音出ししとこ~っと」
「逃げたあー……!」
「(……まさかあいつ、本当は俺に当てるつもりだったんじゃ……)」
「ん? ツバサくんも当たった? どっか痛い?」
葵は異常がないか、ツバサの体をぺたぺたと触る。
「い、いや。大丈夫だから。触んないでくれ」
「がーん!」
「え? いやっ、違う! そんな意味で言ったんじゃなくて!」
「いえいいんです。やっぱりわたしは変態なので。これはもう変えられない事実です。ヒナタ様々の言うとおり」
「いや変える努力しなさいよ」
「そのヒナタ様々怒らせたくなかったら早く動いてくれる、二人とも」
じ、地獄耳だ。
「す、すみませんヒナタ様々!」
急いで立ち上がった衝撃で痛みが走った脇腹を押さえながらヒナタにバチを返した葵は、頑張って持ち場へと歩いて行った。
「……おい」
そのバチをくるくると回しながら、去って行く葵の背中を見送るヒナタに、ツバサは堪らず声をかけた。
「ん? 何ツバサ」
「言いたいことあるなら直接俺に言えよ」
「あいつに文句があったから言ったんだけど」
「物ぶつけることないだろ」
「それは不可抗力」
「体が勝手に動いたって?」
「そうそう。ツバサを変態の手から逃れさそうと思って」
ツバサはすっと目を細める。
「お前、ずっとそのままのつもりかよ」
「……だったら何」
「だったら葵に手出すな。中途半端なことして傷つけるんじゃねえよ」
ツバサはそう言い放って、自分の持ち場へとつく。
ヒナタは葵に渡されたバチを、強く握り締めた。
「(中途半端、……ね)」
ため息をつきながら、ヒナタも自分の位置へとついた。



