すべてはあの花のために③


 彼は軽く触れただけで、すぐに少しだけ離れる。


「……いちご、みるく?」


 そんな葵の第一声に、彼は笑って口を開く。そこには薄いピンク色の飴。


「目。閉じてもらえませんか」


 両頬が緊張で震えた手に包まれ、返事ごと彼に飲み込まれる。


「(……あまい。味がする……)」


 葵はゆっくり瞳を閉じ、彼の服を軽く掴む。
 彼の温かくて、遠慮がちの口づけに、身を任せた。


 どれくらい、そうしていたかわからない。
 一瞬だったのか、それとも長かったのか。
 ひとときの間。二人は甘い口づけを交わしていた。


 名残惜しそうに離れた二人は、ほんのり頬を染めたまま、しばらくの間見つめ合っていた。