彼の言わんとしてることがわかった葵は、ぶわっと真っ赤になる。
「……あともう一押し?」
「えっ? あ、あの」
「じゃあこう言ってみようかな」
たった一人じゃなくて、ここにいる全員に。
幸せ。――分けてあげませんか?
「ダメ、かな。やっぱり」
彼の指先が、顔の横に垂れている髪を耳に掛けていく。とても愛おしそう触れながら、今度は項に。葵の顔は自然と上を向いて、彼と視線が合わさる。すると、彼の顔も徐々に赤く染まっていく。
「……そんな顔で見つめられたら。抑えらんない」
「えっ……?」
会場の拍手はまだ、鳴り止まない。
「君は、苺ミルクって好き?」
「……えっと。嫌いじゃない、ですけど……」
「そっか」
少し俯いた彼からもれたのは、ほっと安堵したような音。そして彼は葵の腰に腕をまわし、項に添えていた手を後頭部へ。
「……もう、俺の我慢が限界みたい」
そう言うが早いか、彼は葵の唇に、彼と同じものをやわらかく重ねた。葵は何が起こったのかわからなかった。目を見開いたまま固まってしまう。会場からは、きゃあっという短い声が上がったが、今の二人にはそんな音すら届かない。
どくんどくんと重なる、二人の心臓の音。聞こえないほど周りはうるさいはずなのに、やけに耳に響いてくる。



