すべてはあの花のために③


 彼の言わんとしてることがわかった葵は、ぶわっと真っ赤になる。


「……あともう一押し?」

「えっ? あ、あの」

「じゃあこう言ってみようかな」


 たった一人じゃなくて、ここにいる全員に。
 幸せ。――分けてあげませんか?


「ダメ、かな。やっぱり」


 彼の指先が、顔の横に垂れている髪を耳に掛けていく。とても愛おしそう触れながら、今度は項に。葵の顔は自然と上を向いて、彼と視線が合わさる。すると、彼の顔も徐々に赤く染まっていく。


「……そんな顔で見つめられたら。抑えらんない」

「えっ……?」


 会場の拍手はまだ、鳴り止まない。


「君は、苺ミルクって好き?」

「……えっと。嫌いじゃない、ですけど……」

「そっか」


 少し俯いた彼からもれたのは、ほっと安堵したような音。そして彼は葵の腰に腕をまわし、項に添えていた手を後頭部へ。


「……もう、俺の我慢が限界みたい」


 そう言うが早いか、彼は葵の唇に、彼と同じものをやわらかく重ねた。葵は何が起こったのかわからなかった。目を見開いたまま固まってしまう。会場からは、きゃあっという短い声が上がったが、今の二人にはそんな音すら届かない。
 どくんどくんと重なる、二人の心臓の音。聞こえないほど周りはうるさいはずなのに、やけに耳に響いてくる。