目の端の涙を拭いながらそう言うと、顔を少し赤くした彼は少し拗ねたように口を尖らせた。
「だって、サムシングフォーって花嫁が身につけるものだし……ぷっ」
笑いを堪えながら「でも」と、葵は付け足した。
「わたしも、どこまでも踏み込もうと思ったので、身につけてみました」
彼は少し目を見開いたあと、照れた笑顔で「教えて?」と。
「そんなに期待してもらえるようなものではないですよ」
「うん。ただ、聞きたいなと思ったんだ」
彼がやっぱりふわりと笑うので、葵もふわっと笑った。
「『古いもの』は、受け継いだものとかって特にはないので。髪とかでいいかと思って」
「うん。素敵だと思う」
彼がそう言ってくれたので、心がすっと軽くなる。
「『新しいもの』は靴。見えないけど、今は真っ赤な靴を履いているんです」
「真っ赤なんだ」
「変だと思わないんですか?」
「え? もちろん。きっと君に似合ってるんじゃないかって、そう思うよ」
ニコッと笑ってくれる彼は、本当にそう思ってくれているみたいだ。
「……『借りたもの』は、このネックレス」
「素敵なブルーとピンクのハートだね」
彼はウインクしながら、お茶目にそう言ってくれる。
「『青いもの』は、ブーケと花冠」
「それとね?」と葵は続ける。
「左足の靴の中に一枚、『銀の6ペンスコイン』が入ってるんです」
「そんなのがあるの?」
「これもちゃんとジンクスなんですよ」
葵がそう言い終わると、ちょうど会場の中心に辿り着いた。
「でも、本当の結婚式でも何でもないのに、どうしてここまでするの?」
「それはあなたもじゃないですか」
言い返したつもりでも、彼は真面目な表情のまま止まっている。
「……わたしは、『幸せにはなれない人間』ですから」
「どうして?」
葵は苦笑いしながら、彼の方を向く。
「最初から決まってること、だからです」
そう言うと、彼は目を見開いたまま固まってしまった。けれど、少し考えてすぐに。
「それじゃあ君は、今この一瞬だけでも幸せになろうとしたんだね」
今度は葵が目を見開く番だ。
少しだけ寂しそうな彼から、葵は視線を会場の人たちに向け、ゆっくりと目を閉じる。
「その通りです。――それでも」
そして、“仮面”を着けていない、本当の笑顔で彼の方へ向いたあと、葵はステージの方へ体を向き直る。
「こんな『わたし』でも、ここにいる誰か一人にでも幸せを分けてあげられたらって。……そう、思うから――――」



