食育男子が転校してきてから一週間が経過した。
天音くん、遊くん、亜実望くんの三人は目立つこともあり、あっという間に人気者になっていた。
亜実望くんは、運動部の男の子から引っ張りだこ。筋肉をつけるための食事やトレーニング方法をみんなに教えているんだって。
スポーツをやっている男の子には興味深い話のようで、他のクラスの子も亜実望くんの話を聞きにくるみたい。
亜実望くん本人も運動神経抜群だから、体育の授業でも大活躍しているんだって。爽やかな汗をかきながらサッカーボールを追いかける姿には、女の子たちもキュンとしちゃうみたい。
一方、遊くんは学園内の不良グループをまとめあげて総長の座に就いちゃったの。『獅子王』なんて異名も付いているんだって。
総長と聞くと怖いイメージだけど、実際には学園の治安を守っているみたい。遊くんが不良グループのトップになったおかげで、学園内のイジメも減ってきたんだって。昨日なんて「助けてくれてありがとう」ってお手紙まで貰っていたよ。
遊くん、見た目は怖いけど、中身は正義感に溢れた人みたい。だから人が集まってくるんだろうね。
そして、天音くんは……。
「藤室ファンクラブに入会させてください!」
「うん、いいよ。よろしくね。はい、飴あげる~」
「ありがとうございます!」
転校初日からみんなのハートを鷲づかみにして、あっという間に学園のアイドルになっていた。
ファンクラブまで設立されていて、会員はすでに百人にのぼるとのこと。女の子だけでなく、男の子も入会しているんだって。
「天音くん、またファンが増えたね。大人気だ」
後ろの席にいる天音くんは、にこにこしながら頬杖をついている。
「糖質はみんなの大好物だからね。白米も、パンも、甘いお菓子も、みんな大好きでしょ?」
「そうだけどさ……」
みんなが天音くんを好きなのは、そこじゃないと思う。
この一週間で分かったんだけど、天音くんって天才気質なんだよね。この前の英語の小テストでは見事満点を叩き出したし、体育の百メートル走もぶっちぎりの一番だった。
勉強ができて、スポーツもできて、そのうえイケメン。にこにこ笑顔でハッピーオーラを醸し出しているのも、愛される理由だろうなぁ。
みんな天音くんとお近づきになりたくて、うずうずしてるの。本人は全然分かっていないみたいだけど。
「でも、心配しないでね。僕は育ちゃん一筋だから。他の人に食べられるのも嬉しいけど、育ちゃんに食べられるのが一番嬉しい」
不意に「食べられる」なんて発言が飛び出してギョッとする。
「あの、学校ではそういうこと言わないほうが……」
周囲を見渡してから小声で注意をする。天音くんが食育男子だってことは内緒だから、あまりそういう話はしない方が良いと思うんだけどな……。
「そうだよね、僕たちのことはみんなには内緒だからね」
分かってくれてよかった。ホッとしたところで、目の前に飴が差し出された。
「はい、育ちゃんにも飴あげる」
「う、うん……。ありがとう」
天音くんって、みんなに飴を配っているんだよね。今日も貰っちゃったよ。これで三個目だ。
包み紙を剥がして食べようとすると、やたらと注目されていることに気付く。
「ん? なに?」
「気にしないで食べて」
私の口元をじーっと見つめている天音くん。そんなに見つめられたら食べづらいよ。
気になりつつも、ぱくっと飴を口に放り込んだ。その瞬間、天音くんはとろけるような笑顔を浮かべながら、へにゃへにゃと机に突っ伏していく。
「しあわせ~」
なんで!? 私が飴を食べただけだよ?
ミルクキャンディーを口の中で転がしていると、天音くんはまたたびをもらった猫のようにデレデレになっていた。可愛いけど、ちょっと奇妙だ。
天音くんは机に頬擦りをしながら、上目遣いで私を見つめる。
「知ってる? 飴一個に含まれる糖質って、3~4グラムなんだよ」
「へ、へえー、そうなんだ」
「だからね。飴を八個以上食べると、食パンを一枚食べたのと同じ糖質を摂取できるの」
うっ……手軽に食べられる飴でも、食べ過ぎたら食パン一枚食べたことになっちゃうのか。
「育ちゃんが望むなら、僕はいくらだってあげちゃうよ」
天音くんは、スッと目を細めながら口元を釣り上げる。その笑顔は、いつぞや見た黒い笑顔だった。ゾゾゾッと背筋が凍って、慌てて前に向き直る。
「今日はもう飴はいらないからっ」
きっぱりと断ると、「ざーんねんっ」とがっかりしたような声が返ってきた。
なんだろう? 天音くん、私にたくさん糖質をとらせようとしている? いや、まさかね。
天音くん、遊くん、亜実望くんの三人は目立つこともあり、あっという間に人気者になっていた。
亜実望くんは、運動部の男の子から引っ張りだこ。筋肉をつけるための食事やトレーニング方法をみんなに教えているんだって。
スポーツをやっている男の子には興味深い話のようで、他のクラスの子も亜実望くんの話を聞きにくるみたい。
亜実望くん本人も運動神経抜群だから、体育の授業でも大活躍しているんだって。爽やかな汗をかきながらサッカーボールを追いかける姿には、女の子たちもキュンとしちゃうみたい。
一方、遊くんは学園内の不良グループをまとめあげて総長の座に就いちゃったの。『獅子王』なんて異名も付いているんだって。
総長と聞くと怖いイメージだけど、実際には学園の治安を守っているみたい。遊くんが不良グループのトップになったおかげで、学園内のイジメも減ってきたんだって。昨日なんて「助けてくれてありがとう」ってお手紙まで貰っていたよ。
遊くん、見た目は怖いけど、中身は正義感に溢れた人みたい。だから人が集まってくるんだろうね。
そして、天音くんは……。
「藤室ファンクラブに入会させてください!」
「うん、いいよ。よろしくね。はい、飴あげる~」
「ありがとうございます!」
転校初日からみんなのハートを鷲づかみにして、あっという間に学園のアイドルになっていた。
ファンクラブまで設立されていて、会員はすでに百人にのぼるとのこと。女の子だけでなく、男の子も入会しているんだって。
「天音くん、またファンが増えたね。大人気だ」
後ろの席にいる天音くんは、にこにこしながら頬杖をついている。
「糖質はみんなの大好物だからね。白米も、パンも、甘いお菓子も、みんな大好きでしょ?」
「そうだけどさ……」
みんなが天音くんを好きなのは、そこじゃないと思う。
この一週間で分かったんだけど、天音くんって天才気質なんだよね。この前の英語の小テストでは見事満点を叩き出したし、体育の百メートル走もぶっちぎりの一番だった。
勉強ができて、スポーツもできて、そのうえイケメン。にこにこ笑顔でハッピーオーラを醸し出しているのも、愛される理由だろうなぁ。
みんな天音くんとお近づきになりたくて、うずうずしてるの。本人は全然分かっていないみたいだけど。
「でも、心配しないでね。僕は育ちゃん一筋だから。他の人に食べられるのも嬉しいけど、育ちゃんに食べられるのが一番嬉しい」
不意に「食べられる」なんて発言が飛び出してギョッとする。
「あの、学校ではそういうこと言わないほうが……」
周囲を見渡してから小声で注意をする。天音くんが食育男子だってことは内緒だから、あまりそういう話はしない方が良いと思うんだけどな……。
「そうだよね、僕たちのことはみんなには内緒だからね」
分かってくれてよかった。ホッとしたところで、目の前に飴が差し出された。
「はい、育ちゃんにも飴あげる」
「う、うん……。ありがとう」
天音くんって、みんなに飴を配っているんだよね。今日も貰っちゃったよ。これで三個目だ。
包み紙を剥がして食べようとすると、やたらと注目されていることに気付く。
「ん? なに?」
「気にしないで食べて」
私の口元をじーっと見つめている天音くん。そんなに見つめられたら食べづらいよ。
気になりつつも、ぱくっと飴を口に放り込んだ。その瞬間、天音くんはとろけるような笑顔を浮かべながら、へにゃへにゃと机に突っ伏していく。
「しあわせ~」
なんで!? 私が飴を食べただけだよ?
ミルクキャンディーを口の中で転がしていると、天音くんはまたたびをもらった猫のようにデレデレになっていた。可愛いけど、ちょっと奇妙だ。
天音くんは机に頬擦りをしながら、上目遣いで私を見つめる。
「知ってる? 飴一個に含まれる糖質って、3~4グラムなんだよ」
「へ、へえー、そうなんだ」
「だからね。飴を八個以上食べると、食パンを一枚食べたのと同じ糖質を摂取できるの」
うっ……手軽に食べられる飴でも、食べ過ぎたら食パン一枚食べたことになっちゃうのか。
「育ちゃんが望むなら、僕はいくらだってあげちゃうよ」
天音くんは、スッと目を細めながら口元を釣り上げる。その笑顔は、いつぞや見た黒い笑顔だった。ゾゾゾッと背筋が凍って、慌てて前に向き直る。
「今日はもう飴はいらないからっ」
きっぱりと断ると、「ざーんねんっ」とがっかりしたような声が返ってきた。
なんだろう? 天音くん、私にたくさん糖質をとらせようとしている? いや、まさかね。
