超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

「うわ…」

部屋に入ってテラスは思わず唸った。
あちこちに本が積みあがっていて、テーブルには書類が山積みになっている。

「ここじゃできないよね」

アンセムを見上げると、沈鬱という表現がピッタリな顔をしていた。

「ごめん、テラス。本当に自分が嫌になる…」

アンセムは片手で顔を覆う。
テラスは胸が苦しくなった。

「どうして?アンセムは何も悪くないよ。アンセムに甘えて、いつまでも答えを出さない私がいけないんだよ」

自分は一体どうすればいいんだろう。
タキノリのときもそうだった。
相手の気持ちに応えられない自分。
そのため、相手に辛い思いをさせてしまう。
何も言わないアンセムに、テラスは言葉をかけ続けた。

「今日、この手伝い終わったら、アンセムの部屋に行ってもいいかな?」

「え?」

アンセムは顔を上げた。

「ゆっくりアンセムと話したい」

テラスは一生懸命アンセムを見つめた。

「ごめん…。やめとこう。今のオレは、テラスと部屋で2人きりになって、平常心保てる自信がないよ」

「そっか…」

断られてしまい、テラスは寂しくなる。

「外が静かになったから、出てみようか?」

アンセムは気分を転換する努力をした。
こんな醜態を晒して、それでもテラスは「話したい」と寄り添ってくれた。
これ以上、テラスに嫌な思いをさせたくない。
戸を開けると、カウンターにカイがいるだけだった。

「シンたちなら出て行ったから、もう大丈夫だぞ」

すぐにアンセムに気付いてカイは声をかけた。
カイの声が聞こえてテラスも部屋から顔を出す。

「その部屋じゃ無理だろ。読書スペースだとまた邪魔者がくるかもしれないから、会議室でやればいい」

そして鍵を取り出した。

「はい」

アンセムは鍵を受け取った。
その後、テラスとアンセムは会議室で頼まれた仕事をこなした。
アンセムは落ち込んだ気持ちを引きずらないよう努め、いつも通りに振舞うよう努力したが、うまくいっているとは思えない。
テラスはそんなアンセムを気遣い、少しでも笑ってもらおうと楽しい話題を出してみたが、いつもより言葉少ない2人。
午前中に作業は終わり、テラスはアンセムを昼食に誘ってみたが、丁重に断られてしまう。

結局テラスは一人で中央施設の食堂で、ぼんやりと昼食をとった。
考えるのはアンセムのことだ。
あんなに辛そうな顔をさせてしまった。自分はどうすればいいんだろう。
アンセムのことは好きだと言い切れる。
でも、それが恋愛感情かどうかは、未だにわからない。
それでも、付き合った方が良いのだろうか?
カイにはじっくり考えろと言われているが、先に行動すれば何か変わる?

(でも、付き合ったらいろいろするんだよね…)

やっぱり、体の関係を持たないといけないのだろうか。
というか、それが自分にできる?
正直できる気がしないテラスである。

「はぁ…わからない」

アンセムの辛そうな顔を思い出した。
好きだから、アンセムが辛そうにすると自分も辛くなる。
このままにしておけないと思った。

(断られちゃったけど、アンセムの部屋に行ってみよう)

テラスはそう決断するのだった。

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図書館でテラスと別れると、アンセムは昼食もとらずに自分の部屋へ戻った。
なかなか気分を切り替えることができない。
ベッドに体を投げ出す。
考えるのはテラスのことだった。

今日の自分は我ながら最低であった。
シンから投げつけられた「テラスを追い詰めて楽しいのか」という言葉が、頭をグルグル回っていた。
余裕のない自分。
汚い自分の本音をテラスに見せてしまったことを、心から後悔した。

それでもテラスは逃げることなく、一生懸命自分と向き合おうとしてくれた。
それだけで充分じゃないか。
出会って間もない頃だったら、あんな醜態を晒したら二度と近寄れなかったはずだ。
なんとか自分を納得させようとする。
しかし一度自分の中に点いてしまった火はなかなか消えない。
テラスが欲しい。どうしようもない衝動が止められない。
自分を静めようともがいていると、部屋の戸がノックされた。

(テラス…?)

アンセムは勢い良くベッドから下りてドアを開けた。

「こんにちは」

しかし、そこにいたのはナミルだった。

「あ…ああ、どうしたんだ?」

「あれ?ガッカリしてます?テラスさんかと思いました?」

図星を刺されて、アンセムは言葉に詰まった。

「何か用かな?」

「用じゃないんですけど、大丈夫かなと思って」

「何が」

「あんな場面目撃しちゃったら、心配になるじゃないですか」

「そういえば、ナミルもいたんだな」

「眼中になかったでしょうけど」

アンセムは否定もせず、困惑した表情を浮かべた。

「中、入っていいですか?」

「それは困る」

「慰めに来たんですよ。同じ立場同士、話くらいは聞けますよ」

「同じ立場?」

「はい。片思い同士」

「ナミルもそうなのか?」

「だから、アンセムさんに。なので、体で慰めてあげてもいいですよ」

「おいおい…」

アンセムは困ってしまう。
ナミルには散々酷いことをしてしまった手前、邪険にできない。

「いーじゃないですか。別にとって食べたりしませんよ。
無理矢理して嫌われた経験ありますから、するなら同意の上です」

「しないよ」

思わず苦笑するアンセム。

「じゃぁ、なおさらいいじゃないですか。苦しいときは、少しぐらい愚痴こぼしたほうが健全でいられますよ。今のままじゃ爆発しちゃいそう」

どうやらナミルは本当にアンセムを心配してきてくれたようだ。
アンセムはナミルの心遣いを嬉しく感じた。
激しい自己嫌悪で、気持ちが弱っていたせいもある。

「押し倒さないでくれよ」

結局、ナミルを部屋に招きいれてしまった。

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テラスは勇気を振り絞って、アンセムの部屋へ向かっていた
今日のアンセムはいつもと違って、切羽詰っていた。だからテラスの誘いを断ったのだ。
襲われても文句は言えない、その覚悟をしてでもこのまま放っておけなかったし、自分の気持ちをハッキリさせたい思いも強かった。

しかし、アンセムの部屋が見えたと同時に、ドアを開けてアンセムとナミルが話している姿が目に入り、テラスは歩みを止める。
2人はしばらく話していたが、最終的にアンセムはナミルを部屋に招きいれた。
その光景を目の当たりにして、テラスは心に石を投げ入れられたような、今まで感じたことのない気持ちになった。

(なんだろう、これ…)

しばらく立ち尽くしていたが、段々気持ちが落ちてきて、テラスは自分の部屋へ引き返すことにした。