「おかえりテラス~!」
テラスが自室のドアを開けると、待ってましたとばかりにアイリが出迎えた。
「ビックリした」
目を丸くするテラス。
アイリはテラスの隣に立つ男を見て驚愕した。
「ええ!?」
「なに?」
テラスとアンセムを交互に見るアイリ。
「こんにちは。アイリ」
笑顔で挨拶するアンセム。
お見合い開始から1時間ほど応接室で過ごした2人は、喫茶室へ場所を移し、お茶をしながら更に1時間ほど過ごした。
その後、アンセムに送られて、テラスは自室まで帰ってきたのだ。
「どうした?アイリ」
アイリの後ろからひょっこり男が顔を出した。
「ライキスも来てたんだ」
「暇だから私が呼んだの」
「勝手に邪魔してごめんな。おみやげ付きだから許してくれよ」
ライキスはアイリの恋人である。
すでにお互い結婚の約束済み。
年はアンセムと同じ20歳。
就業教育は栄養・調理だ。
ライキスは黒い短髪、黒い切れ長の目の持ち主で、細身だが筋肉質な体をしている。
「じゃぁオレはこれで。また誘いにくるから」
そう言ったアンセムを見て、ライキスの表情が曇った。
「また来るの?」
「楽しかったからね」
ポンポン、とテラスの頭を優しく叩く。
女性に触れるときの所作があまりにも自然である。
「え~と、今日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、一応お礼の言葉を述べるテラス。
「はは。テラスは律儀だね。こちらこそ」
アンセムは2人のやり取りを固まって見ていたアイリとライキスにも会釈をして帰っていった。
「と、とりあえず、中入って」
動揺を隠すことなく、アイリがテラスを招き入れる。
「ここ、私の部屋なんだけど」
と言いつつ、いつものことなので気にしないテラス。
パタンとドアが閉まると同時にアイリに詰め寄られた。
「お見合い相手ってアンセムなの?」
「そうだけど。あの人有名なの?」
「有名も有名!女好きでで有名よ!」
「そうなの?」
テラスはアイリにあいづちを打ちつつ、とりあえず靴を脱いで室内用に履き替える。
足が痛かったのだ。
「女の子とっかえひっかえしてるらしいわよ」
「まぁ、モテそうだもんねぇ」
「気をつけた方がいいぞ」
ライキスも助言した。
「ライキスはアンセムさんと同い年だもんね。知ってるの?」
と聞きつつも、テラスはあまり興味がなさそうだ。
「まぁ…色々と」
「ふ~ん。あっ!これー!」
ネックレスとイヤリングを外したところで、テラスはテーブルの上にある素晴らしいものを見つけた。
「美味しそう~!」
「手ぶらで勝手にお邪魔ってわけにもいかないから、作ってきた」
とっても美味しそうなサンドイッチがある。
「食べていい?」
「もちろん」
「テラスのこと待ってたんだよ。みんなで食べよう~!お茶入れるね。お茶」
テラスの部屋なのに自室のように扱うアイリ。
お互いの部屋の行き来は日常的で、泊まることもしばしばあるのだ。
これは第二寮時代からのことである。
とりあえず食べる準備を整え、それぞれイスに座って落ち着いた。
「いっただっきま~す」
今は昼食時を少し過ぎたところ。
3人ともおなかが空いていた。
ぱくっと一口食べて、顔が勝手に笑顔になってしまう。
「おいしい~!ライキス、天才だね☆」
絶賛するテラス。
「ふっ、それほどでも」
「私、将来ず~っとライキスの料理が毎日食べれるのよ。これぞ最高の幸せよね」
「俺もアイリとずっと一緒に暮らせるのは最高の幸せだ」
ラブラブな2人のやり取りをすっかり見慣れたテラスは、ニコニコしながらサンドイッチをぱくついている。
「で、お見合いどうだったの?」
ラブラブモードから追求モードに変わるアイリ。
話を聞きたくて仕方がないのだ。
「うん」
テラスは少し考えてから短く答えた。
「楽しかったよ」
「ああ~そう~…。これが相手が別のまともな人なら喜ばしきことなんだけど」
「テラスに限ってあいつの毒牙に簡単にかかることはないだろ?」
「なんか、アンセムさんってすごい言われ様だね。嫌な人ではないと思うんだけど」
サンドイッチを食べる手を休めず、不思議そうに聞くテラス。
「テラスはこの手の話に全く興味ないからなぁ~」
アイリはやれやれという様子で言葉を続けた。
「あの見た目、あの性格だから、いつも回りに女の子がいるのよ。熱狂的なファンもいっぱいいるし。
アンセムも女の子になら誰にでも優しいから、その気になっちゃう子も多いのよ。来るもの拒まずで、誰でも受け入れちゃうらしいわよ」
「ふ~ん」
食べる手を止めず聞き流すテラス。
「そーよ」
第三寮は自由恋愛で、結婚相手が決まり退寮するまで複数人との交際は禁止されていない。
「まぁ、私には関係ないし。アンセムさんの自由でしょ」
あの美貌とエスコートのスマートさなら、そんなこともあるだろうとテラスは思った。
「でも、楽しかったんでしょう?」
心配そうなアイリ。テラスがアンセムに振り回されることを懸念しているのだ。
「うん。アンセムさんも生物学専攻だし、話していて楽しかった。でも、アイリといる方がずっと楽しいよ」
「くぅ~!可愛いヤツ!テラス大好き!」
ムギュっとテラスに抱きつくアイリ。
余計な心配だったかもしれない。
「せっかくの機会だったのに、寮長はなんでアンセムを見合い相手にしちゃったのかなぁ」
テラスに抱きつきつつ、アイリはため息をついた。
「どう思う?ライキス。私よりアンセムのこと知ってるよね。同年代だし」
ライキスに意見を求めるアイリ。
「まぁ、女には相当フラフラしてるけど、嫌がる相手に無理強いするようなことはないから大丈夫じゃないか?
こっちきてからいろいろな噂を聞くようになったけど、第二寮のときは、特にいざこざもなく、付き合いやすいヤツだったよ」
来期素はあまり心配していないようだ。
「私、結構酷い話聞くんだけど」
「まぁ、俺も耳にすることはあるわな」
「一回限りでポイ!とか。泣いてる子見たことあるし」
「でも当事者じゃねぇし。噂レベルだろ」
「アンセムって、ホント誰にでも優しいからね。だから彼を好きになっちゃった子はしんどいと思うのよね」
「テラスは大丈夫だろ」
テラスを見て微笑むライキス。
ライキスにとって、アイリの親友テラスは妹のような存在なのだ。
ちょっと変わり者だけど、テラスの性格はとても好ましい。
性別を超えて親しくなれるのは、第三寮ではかなり貴重な存在だ。
「もしアンセムが上っ面だけで近づいたって、心動かないんじゃねぇの」
きょとんとするテラス。
アンセムが自分に上っ面だけで近づくメリットが全然思いつかない。
「それにしても、あれだけの有名人を全く知らずに過ごせるってのも、ある意味大物よねぇ」
ライキスの発言に説得力を感じるアイリ。
「これで簡単にアンセムにハマっちゃうくらいなら、ここまで恋愛に無頓着でいられないもんね」
「そーゆーこと」
頷くライキス。
「うん。やっぱり恋愛のことは良くわからないし、お見合いといってもノルマみたいなものだから」
テラスも頷いた。
とりあえずお見合いも無事終了。
自分の務めは果たしたし、後は日常に戻るだけ、そう思っていた。
テラスが自室のドアを開けると、待ってましたとばかりにアイリが出迎えた。
「ビックリした」
目を丸くするテラス。
アイリはテラスの隣に立つ男を見て驚愕した。
「ええ!?」
「なに?」
テラスとアンセムを交互に見るアイリ。
「こんにちは。アイリ」
笑顔で挨拶するアンセム。
お見合い開始から1時間ほど応接室で過ごした2人は、喫茶室へ場所を移し、お茶をしながら更に1時間ほど過ごした。
その後、アンセムに送られて、テラスは自室まで帰ってきたのだ。
「どうした?アイリ」
アイリの後ろからひょっこり男が顔を出した。
「ライキスも来てたんだ」
「暇だから私が呼んだの」
「勝手に邪魔してごめんな。おみやげ付きだから許してくれよ」
ライキスはアイリの恋人である。
すでにお互い結婚の約束済み。
年はアンセムと同じ20歳。
就業教育は栄養・調理だ。
ライキスは黒い短髪、黒い切れ長の目の持ち主で、細身だが筋肉質な体をしている。
「じゃぁオレはこれで。また誘いにくるから」
そう言ったアンセムを見て、ライキスの表情が曇った。
「また来るの?」
「楽しかったからね」
ポンポン、とテラスの頭を優しく叩く。
女性に触れるときの所作があまりにも自然である。
「え~と、今日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、一応お礼の言葉を述べるテラス。
「はは。テラスは律儀だね。こちらこそ」
アンセムは2人のやり取りを固まって見ていたアイリとライキスにも会釈をして帰っていった。
「と、とりあえず、中入って」
動揺を隠すことなく、アイリがテラスを招き入れる。
「ここ、私の部屋なんだけど」
と言いつつ、いつものことなので気にしないテラス。
パタンとドアが閉まると同時にアイリに詰め寄られた。
「お見合い相手ってアンセムなの?」
「そうだけど。あの人有名なの?」
「有名も有名!女好きでで有名よ!」
「そうなの?」
テラスはアイリにあいづちを打ちつつ、とりあえず靴を脱いで室内用に履き替える。
足が痛かったのだ。
「女の子とっかえひっかえしてるらしいわよ」
「まぁ、モテそうだもんねぇ」
「気をつけた方がいいぞ」
ライキスも助言した。
「ライキスはアンセムさんと同い年だもんね。知ってるの?」
と聞きつつも、テラスはあまり興味がなさそうだ。
「まぁ…色々と」
「ふ~ん。あっ!これー!」
ネックレスとイヤリングを外したところで、テラスはテーブルの上にある素晴らしいものを見つけた。
「美味しそう~!」
「手ぶらで勝手にお邪魔ってわけにもいかないから、作ってきた」
とっても美味しそうなサンドイッチがある。
「食べていい?」
「もちろん」
「テラスのこと待ってたんだよ。みんなで食べよう~!お茶入れるね。お茶」
テラスの部屋なのに自室のように扱うアイリ。
お互いの部屋の行き来は日常的で、泊まることもしばしばあるのだ。
これは第二寮時代からのことである。
とりあえず食べる準備を整え、それぞれイスに座って落ち着いた。
「いっただっきま~す」
今は昼食時を少し過ぎたところ。
3人ともおなかが空いていた。
ぱくっと一口食べて、顔が勝手に笑顔になってしまう。
「おいしい~!ライキス、天才だね☆」
絶賛するテラス。
「ふっ、それほどでも」
「私、将来ず~っとライキスの料理が毎日食べれるのよ。これぞ最高の幸せよね」
「俺もアイリとずっと一緒に暮らせるのは最高の幸せだ」
ラブラブな2人のやり取りをすっかり見慣れたテラスは、ニコニコしながらサンドイッチをぱくついている。
「で、お見合いどうだったの?」
ラブラブモードから追求モードに変わるアイリ。
話を聞きたくて仕方がないのだ。
「うん」
テラスは少し考えてから短く答えた。
「楽しかったよ」
「ああ~そう~…。これが相手が別のまともな人なら喜ばしきことなんだけど」
「テラスに限ってあいつの毒牙に簡単にかかることはないだろ?」
「なんか、アンセムさんってすごい言われ様だね。嫌な人ではないと思うんだけど」
サンドイッチを食べる手を休めず、不思議そうに聞くテラス。
「テラスはこの手の話に全く興味ないからなぁ~」
アイリはやれやれという様子で言葉を続けた。
「あの見た目、あの性格だから、いつも回りに女の子がいるのよ。熱狂的なファンもいっぱいいるし。
アンセムも女の子になら誰にでも優しいから、その気になっちゃう子も多いのよ。来るもの拒まずで、誰でも受け入れちゃうらしいわよ」
「ふ~ん」
食べる手を止めず聞き流すテラス。
「そーよ」
第三寮は自由恋愛で、結婚相手が決まり退寮するまで複数人との交際は禁止されていない。
「まぁ、私には関係ないし。アンセムさんの自由でしょ」
あの美貌とエスコートのスマートさなら、そんなこともあるだろうとテラスは思った。
「でも、楽しかったんでしょう?」
心配そうなアイリ。テラスがアンセムに振り回されることを懸念しているのだ。
「うん。アンセムさんも生物学専攻だし、話していて楽しかった。でも、アイリといる方がずっと楽しいよ」
「くぅ~!可愛いヤツ!テラス大好き!」
ムギュっとテラスに抱きつくアイリ。
余計な心配だったかもしれない。
「せっかくの機会だったのに、寮長はなんでアンセムを見合い相手にしちゃったのかなぁ」
テラスに抱きつきつつ、アイリはため息をついた。
「どう思う?ライキス。私よりアンセムのこと知ってるよね。同年代だし」
ライキスに意見を求めるアイリ。
「まぁ、女には相当フラフラしてるけど、嫌がる相手に無理強いするようなことはないから大丈夫じゃないか?
こっちきてからいろいろな噂を聞くようになったけど、第二寮のときは、特にいざこざもなく、付き合いやすいヤツだったよ」
来期素はあまり心配していないようだ。
「私、結構酷い話聞くんだけど」
「まぁ、俺も耳にすることはあるわな」
「一回限りでポイ!とか。泣いてる子見たことあるし」
「でも当事者じゃねぇし。噂レベルだろ」
「アンセムって、ホント誰にでも優しいからね。だから彼を好きになっちゃった子はしんどいと思うのよね」
「テラスは大丈夫だろ」
テラスを見て微笑むライキス。
ライキスにとって、アイリの親友テラスは妹のような存在なのだ。
ちょっと変わり者だけど、テラスの性格はとても好ましい。
性別を超えて親しくなれるのは、第三寮ではかなり貴重な存在だ。
「もしアンセムが上っ面だけで近づいたって、心動かないんじゃねぇの」
きょとんとするテラス。
アンセムが自分に上っ面だけで近づくメリットが全然思いつかない。
「それにしても、あれだけの有名人を全く知らずに過ごせるってのも、ある意味大物よねぇ」
ライキスの発言に説得力を感じるアイリ。
「これで簡単にアンセムにハマっちゃうくらいなら、ここまで恋愛に無頓着でいられないもんね」
「そーゆーこと」
頷くライキス。
「うん。やっぱり恋愛のことは良くわからないし、お見合いといってもノルマみたいなものだから」
テラスも頷いた。
とりあえずお見合いも無事終了。
自分の務めは果たしたし、後は日常に戻るだけ、そう思っていた。



