すべてはあの花のために②


「もうしょうがない。打ち合わせは後日に延長してもらおう」

「それは彼らに失礼だろう」

「――! ……だったら、どうするっていうのさ」


 葵の気迫に、少しヒナタが気圧される。
 葵は僅かに思案してから、ヒナタに当日の流れだけでも説明できるか尋ねた。


「殆ど覚えてるから、それくらいならできるけど……」

「そっか。それは心強いや」


 ほっと安堵した葵は、すぐにヒナタへ来客用の茶菓子などの準備を進めるよう頼んだ。


「いや、あんたは」

「わたしは資料を複製してみるから!」


 どや顔のサムズアップに、ヒナタは思い切り怪訝な表情を返した。


「呆れた。そんなの無理に決まって」

「諦めたらそこで試合終了だよ!」

「いや、試合じゃないから。冗談も大概に」

「わたしも殆ど覚えてるから、それを元に作ってみるよ! 頑張って30分までには終わらせてみせるから、ヒナタくんは視聴覚室で準備をお願い!」


 頑なに折れようとしない葵に、ヒナタはため息を吐いて一応了承の意志を示す。


「なら、準備が終わったら手伝いに来る」

「大丈夫大丈夫! ヒナタくんは待機してて! もし全員揃われたら、ヒナタくんがわかる範囲で説明を始めてて欲しい!」


 葵はそう言いながら、すでに資料の複製の準備に取り掛かっていた。


「……わかった。じゃあ随時連絡は入れるようにするから。それでいい?」

「助かる! じゃあ後でね! 必ず間に合わせるから!」


 そうして葵は、ヒナタの背中を押して生徒会室から追い出した。


「……ありがとうヒナタくん。それから……ごめんシント」


 約束は、破ることになりそうだ――小さく謝罪しながら、葵はパソコンの前へと腰を下ろした。