「もうしょうがない。打ち合わせは後日に延長してもらおう」
「それは彼らに失礼だろう」
「――! ……だったら、どうするっていうのさ」
葵の気迫に、少しヒナタが気圧される。
葵は僅かに思案してから、ヒナタに当日の流れだけでも説明できるか尋ねた。
「殆ど覚えてるから、それくらいならできるけど……」
「そっか。それは心強いや」
ほっと安堵した葵は、すぐにヒナタへ来客用の茶菓子などの準備を進めるよう頼んだ。
「いや、あんたは」
「わたしは資料を複製してみるから!」
どや顔のサムズアップに、ヒナタは思い切り怪訝な表情を返した。
「呆れた。そんなの無理に決まって」
「諦めたらそこで試合終了だよ!」
「いや、試合じゃないから。冗談も大概に」
「わたしも殆ど覚えてるから、それを元に作ってみるよ! 頑張って30分までには終わらせてみせるから、ヒナタくんは視聴覚室で準備をお願い!」
頑なに折れようとしない葵に、ヒナタはため息を吐いて一応了承の意志を示す。
「なら、準備が終わったら手伝いに来る」
「大丈夫大丈夫! ヒナタくんは待機してて! もし全員揃われたら、ヒナタくんがわかる範囲で説明を始めてて欲しい!」
葵はそう言いながら、すでに資料の複製の準備に取り掛かっていた。
「……わかった。じゃあ随時連絡は入れるようにするから。それでいい?」
「助かる! じゃあ後でね! 必ず間に合わせるから!」
そうして葵は、ヒナタの背中を押して生徒会室から追い出した。
「……ありがとうヒナタくん。それから……ごめんシント」
約束は、破ることになりそうだ――小さく謝罪しながら、葵はパソコンの前へと腰を下ろした。



