「……――ということで、『皇 秋蘭』はもう大丈夫です」
「本当に、彼だけかい?」
「やっぱり理事長はご存じなんですね」
「じゃないと君には頼まないさ」
「……ふう。皇秋蘭とともに、『皇 信人』も、もう大丈夫です」
「そうか、ご苦労だったね」
「いえ。それでは、わたしはこれで――」
「少しだけ、いいかな」
それだけ言って、さっさと立ち去ろうとする彼女を静かに引き留める。
「ぶっちゃけて言うと、今回が一番の大ボスだったと思うんだ。なのに何故彼だったのかな」
「お、大ボスですか?」
「相手はあの皇だ。誰も動けなかった。だから君じゃないと動けなかったんだけど、どうして彼を次にしたのかと思って」
「単純な興味本位でごめんね」と付け加えると、彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。
「……彼には、時間がなかったからです」
「本当に?」
「はあ。……もう、ご存じならどうして聞くんですか」
「だって、君の口からちゃんと聞きたいんだもん」
「もちろん無理のない範囲でだけど」と続けると、彼女は言葉を選ぶだけの間を空けて答えた。
「……『わたし』が枯れてしまうかもしれないからです」
「もうすぐなの」
「それはわかりません。でも彼に時間がなかったのも事実。そして、わたしが動ける間に一番重たい問題を片付けておくべきだと思いました」
「……他は重くないと?」
「そうではありません。でも彼を止められれば、もしわたしが枯れても大丈夫だと思ったからです」
「それは執事くんもいるからかな」
「否定はしません。でも、わたしはこのままでは終わるつもりはありません。……ちゃんと、願いを叶えるまでは」
俯く彼女は、もしかすると気づいてしまったのかもしれない。
それでも、『それ』を尋ねるわけにはいかない。今はまだ、曖昧のまま……。
「やっぱり君は、変わらないの」
「はい。……もう、わたしが変わることはありません」
それでは失礼しますと、彼女は扉の方へと足を進める。
「また何かあれば来ますが……理事長。トーマさんにも喋りましたね?」
「あれだけなら『すべて』はわからないよ」
「ならいいですけど。……それでは、失礼致しました」
「はーい。また来てね」
そう言って彼女は理事長室を出て行った。
「変わらない、か」
やはり彼女は『変わらない』ようだ。
「いやあ。それだけは何としてでも、止めたいんだけどねー」
そう言いながら、理事長は隠し扉の方へと歩みを進める。
「……ね? 待ってたらいいことあるかもって言ったでしょう?」
その隠し扉から出てきたのは――――。



