「すうー……」
「寝るな!」
それはいかん。せめてちゃんと言ってからにして。
葵の突っ込みに「はっ!」と起きたアキラは、少し申し訳なさそうにした。
「と、いうわけなんだ」
「わかるか!」
「「…………」」
みんなで総突っ込みを入れたけど、どうやら彼らは理解したらしい。
流石。言葉がなくても通じるんだな。
「アキラくん。ちゃんと言ってください」
「わかってます」
「恥ずかしいんでしょうが、頑張りなさい」
「……はい」
葵たちのやりとりに、何となく状況が掴めたツバサとオウリは、ほっと安心した笑顔になっていた。だってもう、彼の左耳には、彼を縛っていたものがなくなっていたから。
「……俺は、もうおかしくならないから。だから……」
――今までちゃんと俺のこと、見ていてくれて。そばにいててくれて。
「……ありがとう」
照れくさそうに言ったアキラを見て、みんな笑顔になった。キサなんかは、「よかった……」と涙を流していて、キクに背中を摩ってもらっている。
「どうして俺がおかしくなったのか、みんなには知っておいてもらいたいから、聞いててくれ」
アキラはみんなに、どうして甘いものを異常に食べ出してしまったのか。よくぼうっとするようになってしまったのか。異常なほど寝てしまっていたのか。それはすべて『記憶を消すため』『忘れるため』だったのだと伝えた。
それを聞いたみんなは驚いていた。それもそうだ。そんなことが意図的にできてしまうのだから。
「まだ少し後遺症は残ってるが、すぐに回復していくから、安心して欲しい」
「そっか! それは本当によかったね、あきクン!」
「もうあんまりぼうっとしないでよー? 運ぶの大変なんだからー」
「アキっ! ……ほんと、よかった。べ、別にそんな。心配とか、そんなことは」
「心配してくれてありがとう。千風」
「! ……うんっ。ほんと、よかったな!」
「それはそうとさアキくん」
「ん? なんだ日向」
「甘いものはやめるつもりないの?」
ヒナタの問いかけに、アキラは無言を返すだけ。
「え。……そうなのアキ」
「だから最初に『甘いものが大好きです』って言ったもん」
「ええ?! また糖尿病の心配しないといけないの!?」
「大丈夫だ紀紗。そこまで酷くない。それに――」
そう言ってアキラは葵の腰を引き寄せる。
「俺には葵がそばについててくれるから安心だ」
「はあっ?!」
「!?」
「あらまー!」
「おー大胆」
そんな風にみんながそれぞれ叫んでいる中。
「アキラくん、この手は?」
「……嫌か?」
「そうじゃなくて、わざわざ引き寄せなくても、わたしはアキラくんのそばにいるよ?」
「え!?」
「!?」
「……葵、それって――」



