すべてはあの花のために②


「すうー……」
「寝るな!」

 それはいかん。せめてちゃんと言ってからにして。

 葵の突っ込みに「はっ!」と起きたアキラは、少し申し訳なさそうにした。


「と、いうわけなんだ」
「わかるか!」
「「…………」」


 みんなで総突っ込みを入れたけど、どうやら彼らは理解したらしい。
 流石。言葉がなくても通じるんだな。


「アキラくん。ちゃんと言ってください」

「わかってます」

「恥ずかしいんでしょうが、頑張りなさい」

「……はい」


 葵たちのやりとりに、何となく状況が掴めたツバサとオウリは、ほっと安心した笑顔になっていた。だってもう、彼の左耳には、彼を縛っていたものがなくなっていたから。


「……俺は、もうおかしくならないから。だから……」


 ――今までちゃんと俺のこと、見ていてくれて。そばにいててくれて。


「……ありがとう」


 照れくさそうに言ったアキラを見て、みんな笑顔になった。キサなんかは、「よかった……」と涙を流していて、キクに背中を摩ってもらっている。


「どうして俺がおかしくなったのか、みんなには知っておいてもらいたいから、聞いててくれ」


 アキラはみんなに、どうして甘いものを異常に食べ出してしまったのか。よくぼうっとするようになってしまったのか。異常なほど寝てしまっていたのか。それはすべて『記憶を消すため』『忘れるため』だったのだと伝えた。
 それを聞いたみんなは驚いていた。それもそうだ。そんなことが意図的にできてしまうのだから。


「まだ少し後遺症は残ってるが、すぐに回復していくから、安心して欲しい」

「そっか! それは本当によかったね、あきクン!」

「もうあんまりぼうっとしないでよー? 運ぶの大変なんだからー」

「アキっ! ……ほんと、よかった。べ、別にそんな。心配とか、そんなことは」

「心配してくれてありがとう。千風」

「! ……うんっ。ほんと、よかったな!」

「それはそうとさアキくん」

「ん? なんだ日向」

「甘いものはやめるつもりないの?」


 ヒナタの問いかけに、アキラは無言を返すだけ。


「え。……そうなのアキ」

「だから最初に『甘いものが大好きです』って言ったもん」

「ええ?! また糖尿病の心配しないといけないの!?」

「大丈夫だ紀紗。そこまで酷くない。それに――」


 そう言ってアキラは葵の腰を引き寄せる。


「俺には葵がそばについててくれるから安心だ」
「はあっ?!」
「!?」
「あらまー!」
「おー大胆」


 そんな風にみんながそれぞれ叫んでいる中。


「アキラくん、この手は?」

「……嫌か?」

「そうじゃなくて、わざわざ引き寄せなくても、わたしはアキラくんのそばにいるよ?」

「え!?」

「!?」

「……葵、それって――」