すべてはあの花のために②


「ずず……シン兄、どこ行ってたんだ」


 少し冷静を取り戻したアキラがシントに問い質す。


「あーどうすっかなあ。俺の話をするべきか、お前の話をするべきか……」

「? どういうこと?」

「取り敢えず今は正気っぽいから、俺の話でも大丈夫かな。あんま時間ないけど、聞きたいんでしょ?」

「うん」

「じゃあ話してやる。お前もちゃんと逃げずに聞いとけ」

「わかった」

「あ。先に言っとこ。……楓?」

「んあ? なんだ、どうした」

「アキをここまでちゃんと支えてくれてありがとう。それと父さんのことも」

「……そんなの、お安いご用だ。馬鹿野郎が」

「そっかそっか。……じゃあ楓も聞いてって。俺が今までどうしてたか」


 そうしてシントは、皇から逃れ道明寺で素性を隠し、葵の専属の執事として働いていることを彼らに話した。
 アキラとカエデは目を見開いて葵とシントを交互に見ている。まさかここが繋がっているとは思いもしなかっただろう。


「俺が皇の人間だって葵に話したのはついさっき。お前らには申し訳ないけど、葵が俺に踏み込んでこなかったら、俺は一生お前らと会う気はなかった。それでも今、こうして会いに来た」


 一度葵へ視線を流してから、シントはゆっくりとアキラへ目線を合わせる。


「アキ。こんな俺を、葵は動かした。それが誰のためなのか、お前はちゃんとわかってるだろ。だから俺は、ここに来たんだ。お前を止めるために」

「シン兄……」

「俺はさ、怖かったんだ。お前らに会うのが。お前らのことが大好きだから。でも俺は見捨てた人間。嫌われても当然だと思ってた。……今まで、つらい思いさせて、ごめん」

「……俺はシン兄のこと、嫌ってなんかない」

「うん、そうだな」

「俺はただ。……ずっと、会いたかっただけだ」


 ゆっくり、ゆっくりと、アキラは自分の胸の内をこぼしていく。


「でも、俺が母さんを殺した。父さんをあんな風にしたのも。だから、シン兄もいなくなった」

「ばっか。そんなわけないじゃん。俺がお前を嫌いになるわけないのに」

「でも俺は。次期皇の当主として皇を支えていくために。俺の罪を一生、背負って生きていかないと……」

「だから、【それ】を外そうとしないのか」