すべてはあの花のために②


 言い切るよりも早く、シントはきつく、葵の体を抱き締めた。


「俺は、本気でお前が好きだよ。俺の片想い舐めんな。だいぶ前からじゃい」

「……し、シント……?」

「お前は変わらないかもしれない。でも、変えてみせるから。絶対に」

「――?!」


 目を見開いた葵は、慌てて子供を叱るように言葉を強める。


「それはダメ。絶対だめ」

「嫌だ。俺はもう『お前』を知った時から、そうするって決めてるの」

「シント」

「だから覚悟しとけばいいよ」


 真っ直ぐな視線。金色に輝く彼の瞳が、嘘偽りではないことを表していた。


「……しんとの。ばか……」

「馬鹿で結構コケッコー」

「もうっ!」


 その気持ちを受け入れられない。受け止めてはいけない。応えてもいけない。どうしてあげることもできない。
 だけど、こんな『自分』と知っていても、気持ちを向けてくれていること自体がすごく……嬉しいし、有り難い。


「……ねえ葵。キスしてい?」

「ぅえっ?! だ、ダメに決まってるでしょ!」

「じゃあ上書きだけ」

「え。う、上書きって……?」


 まさか、それを了承と受け取ったのか。髪を掻き上げてきたかと思ったら、すでに痕がついているそこへ、躊躇うことなく彼は唇を寄せてきて……。


「ひゃっ! あ……っ」


 軽い音とともに、満足そうな表情をして離れていった。


「よし。これでお前は俺の」

「なっ、何言って」

「だって俺はお前のなんでしょ? だったら葵は俺のもんじゃん」

「あ、あれは! 言葉の綾で!」

「諦めな葵」

「……っ。うう~……」

「そんな喜ぶなよ」

「悲しんでるの!」

「何で悲しむの」

「だってシントが……」


 ――……幸せに、なれないから。


「……じゃあ、葵が幸せにしてよ」

「できないよ」

「じゃあ俺は不幸のままってわけだ」


「ま、それもいいけどね」なんて、心底嬉しそうに言われてしまっては、葵はもうどうすることもできなかった。


「……シント」

「ん?」

「好きって言ってくれて。……ありがとう」

「……ん。どういたしまして」