すべてはあの花のために②


 記憶を消される前に、皇を飛び出した。そこからは、どうやって逃げたのか覚えてない。
 でも逃げたところで、きっとすぐに見つかる。こんなのほんの一瞬の時間稼ぎにしかならない。

 そう思っていたあの時、俺を助けてくれたのは葵だった。


 葵が俺のことを、道明寺に頼んで執事にしてくれて、頼んだら俺自身のことを隠してくれた。
 だから、本当にお前には感謝してるんだ。ここまで何もしないまま、ただ幸せに生きてこられたのはお前のおかげだから。

 実は仕事の合間にさ、皇のことを調べていたんだ。
 俺がいなくなったせいで、アキが次期当主に選ばれてしまったこと。母さんが死んだことも、知ってた。

 それでもやっぱり、俺は皇を逃げ出した奴だから。ほっといて逃げた奴だから。俺なんて、ずっと前から嫌われてるだろうと思って、今まで助けてやれなかった。


「でもね葵、俺頑張るよ。今までずっと、逃げてきた分」


 あいつを止める。絶対に。だってあいつは、俺の大事な家族で、俺はあいつの大好きな兄だから。


「だから葵、俺に踏み込んできてくれてありがとう」

「そんなことお安いご用だよ。だってシントは、わたしの家族なんだから! ……わたしも、アキラくんを止めるよ。今度、みんなでお母様のお墓参りに行こうね」


 シントは心底嬉しそうに笑った。


「……ありがとう。葵」


 溜まっていた涙が、目蓋を下ろしたと同時に頬を伝って落ちて行った。