「葵。……少しだけ、俺の話聞いてくれる?」
「……! っ、うん。是非お願いしようかな!」
「って言っても、ほとんどわかってると思うけど」
「それでもわたしは、シントの口から聞きたいなって思うよ」
「……わかった。あんまり面白くないと思うけど――」
俺の母さんとは、俺を産んですぐに離婚したんだって。だからアキとは母親が違うけど、アキのお母さんはすごくやさしくて、俺もすぐ懐いた。家族みんな、楓も含めて仲が良かったんだ。
一度だけ、アキの友達に紹介されたことがある。その頃にはすでに次期皇を支えていく身として英才教育を受けていたから、そもそもあんまり外には出ることはなくて。
だから、彼らと会ったのはそれっきりだった。それが葵の友達だと知った時は相当驚いたよ。世間って狭いんだなって。
アキが楽しそうだったし、父さん母さんも嬉しそうだったから、俺もこの人たちのために頑張らなきゃと思ってたんだ。……――あの日までは。
アキと母さんが誘拐犯に襲われた。アキが小5、俺が中1になる時だった。
それ以降目を覚まさなかった重傷の母さんは、所謂植物状態。父さんは精神的にショックを受け、次第に壊れ始めた。
そんな状態を見ていたけれど、まだ子供だった俺たちにはどうすることもできなかった。
父さんがそうなってすぐだ。皇の奴らが次期当主の話をし出したのは。それにはもちろん俺の名前が挙がった。でも、あいつらは狂っていた。
『同じことを繰り返してしまわぬよう、忘れさせてしまえばいいのではないか』
まず、父さんがその犠牲になった。でも逆に俺は、医療に長けている皇なら、何があっても大丈夫だろうって。何より、もしかしたら父さんの今の状況が少し軽くなるかもしれないって。そう思ってた。
けれど、甘かった。現実は残酷だった。
記憶を一気に消そうとしたせいで、父さんは抜け殻のようになった。
俺は、それが怖かった。
俺もそうなってしまうのか……忘れてしまうのか。
家族を。大切な人たちを。



