すべてはあの花のために②


「……どうして、俺ってわかったの」

「わからなかったよ? だって『シン』って付く人なんていっぱいいるし」

「なのにどうして?」

「……一つは、『シン兄』という人が4月に消えたこと。もう一つは口癖かな」

「口癖?」

「シント、これを見て欲しいんだ」


 そう言って葵は彼から預かったロケットを出す。


「……これって……」

「シントもお世話になってた人から借りてきたの」

「楓……」

「今でも大事そうに首から提げてた。カエデさんも、シントのこと心配してたよ」


 その彼が、言ってたの。『携帯さん』って。
 それにアキラも言ってた。たったそれだけ。


「でも、そうだろうなって思ったよ」

「……楓のが、うつった」

「ははっ。そうだったんだね?」


 シントは、ロケットの写真に目を細めながら、そっと触れる。


「よくわかったね、母親が違うって」

「男の子ってね、お母さんの遺伝子継ぎやすいんだって。だから、ご両親のどちらかの瞳は金色で、どちらかは灰色なんじゃないかなって思ってたんだけど。お写真のお母様は灰色で、お父様は黒色だったから。それなら……と思っただけ」

「うん。この瞳、実の母親譲りなんだ」


 ふっと嬉しそうに頬が緩む。


「……ごめんねシント」

「うん?」

「わたしったら、シントのこと手放そうなんて微塵も思ってなくて。……皇には申し訳ないけど、シントはもうわたしだけのものだから。シントが帰るって言ったって、泣いて駄々捏ねたって放してあげるつもりは――」

「ぶっ! ……は。ははは……っ!」

「えっ? わたし、変なこと言った?」

「違う違う。……すごく、嬉しかっただけ」

「そ、そっか。それならよかった!」


 つい嬉しくなった葵は、シントの頭をわしゃわしゃと混ぜ擦り回すように撫でた。