「シントの消息が掴めないよう、こっちで手を回したね。シントには、見つかってしまうと怖い人がいたから」
「…………」
「シントはただ、嫌われるのが怖いんだよね。ううん、もしかすると、もう嫌われてるかも知れないって思ってる」
シントは壁にもたれかかり、ぐったりと座り込む。葵はそんな彼の前に座り、両頬を持って目線を合わせた。
「……シント? たとえお母様が違ったとしても、あなたはアキラくんのお兄ちゃん。アキラくんが大好きな、『シン兄』なんだよ」
「――っ」
「もうアキラくんはおかしくなってる。ぼうっとしてる時に呟くんだよ、シン兄って。……嫌いな人の名前なんか呼ばない。両親じゃなくて、アキラくんが呼ぶのは、助けて欲しいのは、シン兄だけなんだよ!」
「――! でも、俺はっ」
「アキラくんは自分をずっと責めてる!」
母さんを殺してしまったのは俺のせいだ。
父さんを壊してしまったのは俺のせいだ。
シン兄がいなくなったのは、俺のせいだ。
「だから、上からの命令を止められない。拒否できない」
「……違う。アキのせいじゃない。俺が、逃げたから……」
「理由はそうじゃない。あなたの家族は、誰も悪くない。そうでしょう?」
悪いのは、誘拐を企てた犯人だ。
記憶を消そうなんて言い出した愚かな皇だ。
「アキラくんには今、きっとあなたの声しか届かないの」
「…………」
「大丈夫? できそう? ……言えないならわたしが――」
「いや言うよ。……俺が言う」
「……引き摺ってでも連れて行くぞって、言おうとしただけだから、あなたに言わす気満々だったけどね」
「……は。はは……」
シントは大きなため息を吐いた。
葵はそんなシントの頭をゆっくり撫でる。
「偉いね。よくできました」
「……っはあ……」
彼が吐くため息は、少し涙声だった。



