「俺は……あいつの、兄なんかじゃ……」
「あいつって?」
「……っ」
「……そう。わかった。シントなんか、もう知らない」
「えっ」
「今から皇に乗り込んでいろいろ騒ぎ起こして、今すぐ警察さんのお世話になってくる」
「ええ?!」
「それぐらいわたしは、本気だよ」
シントのためなら、本当にそうしたっていいと思ってるんだから。
「……な、んで……」
「じゃあシントは、どうしてそんなに皇が怖いの?」
「聞いたんでしょ知ってるんでしょ」
「シントの口からちゃんと聞いてないよ」
「……あいつらが、考えてることだよ」
「本当に?」
「っ、は? だって、普通に考えて怖いでしょ。あんなことするなんてどうかして」
確かに話を聞いた時は、そんなことできるかのと思ったし、そもそもそんなことを考えるような人たちは本当に愚かだと思った。……でもね。
「違うでしょう? もっと違うこと、あるんじゃないの?」
そっと、彼の手を握る。びくりと震えたけれど、それを振り払われるようなことはなかった。
「シントは優秀だ。会った時から何でもできてすごかった。まあ残念なことに、武術ではわたしに敵わなかったけど」
「……いや、葵に敵うような奴そうそういないでしょ」
「シント」
名前を呼んで、ぎゅっと力を込める。残念ながら、それに返してはくれなかった。それも仕方がない。
「確かに、逃げ出した時はバカなこと考えていた人たちのことが怖かったのかもしれないね。でも今は、そうじゃないでしょう?」
冷たくなった彼の手は、ずっと震えていたから。



