「それで? どうして俺を呼んだの? 仕事中だったのに」
「いや仕事嘘でしょ。あんな早くここ来られないし」
「何か文句ある」
「ありませんすみません」
「それで? 本当にキス魔に襲われたの」
「いえ、魔王に襲われました」
「は?」
「大変! こんなことしてる場合じゃなかったんだ!」
「ど、どうしたのいきなり」
「シントにね、聞きたいことがあって来たの!」
「いや呼んだんでしょ」
「そうとも言うね!」
「……どうしたの。何でそんなに慌ててんの」
この間、四国からの帰りに連絡をしたきり。それまで一度も連絡をしたこともなければ、ちょっとしたことで電話を入れるなんてこともしたことはない。
「急がなくちゃいけないんだけど、でも、それでいいのか迷ってるの?」
「いやなんで疑問系。……珍しいね。葵が迷ってるの」
シントが怪訝に思うのも無理はない。
何故なら葵にも、今まで見て見ぬ振りをしてきたことがあるから。
「これについてはわたしも今まで踏み込まなかったからね。だからどうしたもんかと悩んでいるんだが、シントはどう思いますか?!」
「わけわかんないんだけど……でも急がないといけないんでしょ? だったら早くした方がいいんじゃない?」
「そ、そうだよね。……わたし、今までこんな躊躇ったことないかも」
「俺でよかったら聞くよ?」
「ありがとう。実はシントじゃないと……ううん」
今まで、何も思わなかったわけじゃない。
ただ、甘えていただけだ。今の状況に。この関係の心地よさに。
「シン兄じゃないと、ダメなんだよ」
でもそろそろ、向き合わないと。
わたしも――それから……シント。あなたも。



