すべてはあの花のために②


「それで? どうして俺を呼んだの? 仕事中だったのに」

「いや仕事嘘でしょ。あんな早くここ来られないし」

「何か文句ある」

「ありませんすみません」

「それで? 本当にキス魔に襲われたの」

「いえ、魔王に襲われました」

「は?」

「大変! こんなことしてる場合じゃなかったんだ!」

「ど、どうしたのいきなり」

「シントにね、聞きたいことがあって来たの!」

「いや呼んだんでしょ」

「そうとも言うね!」

「……どうしたの。何でそんなに慌ててんの」


 この間、四国からの帰りに連絡をしたきり。それまで一度も連絡をしたこともなければ、ちょっとしたことで電話を入れるなんてこともしたことはない。


「急がなくちゃいけないんだけど、でも、それでいいのか迷ってるの?」

「いやなんで疑問系。……珍しいね。葵が迷ってるの」


 シントが怪訝に思うのも無理はない。
 何故なら葵にも、今まで見て見ぬ振りをしてきたことがあるから。


「これについてはわたしも今まで踏み込まなかったからね。だからどうしたもんかと悩んでいるんだが、シントはどう思いますか?!」

「わけわかんないんだけど……でも急がないといけないんでしょ? だったら早くした方がいいんじゃない?」

「そ、そうだよね。……わたし、今までこんな躊躇ったことないかも」

「俺でよかったら聞くよ?」

「ありがとう。実はシントじゃないと……ううん」


 今まで、何も思わなかったわけじゃない。
 ただ、甘えていただけだ。今の状況に。この関係の心地よさに。


シン兄(、、、)じゃないと、ダメなんだよ」


 でもそろそろ、向き合わないと。
 わたしも――それから……シント。あなたも。