すべてはあの花のために②


「――?! ……ッ、うっ……!」


 胃の奥底から、急激に迫り上がってくるものに耐えきれず、思わず膝を突く。


「……っは。まさか、白昼夢にまで出てくるなんてね」


 点滴に繋がれた白い腕は日に日に痩せ細り、その姿を泣き叫びながら見つめていたその人は、徐々に人格を崩壊させ、幼い子どもの小さな肩にその全ての責任と後悔が押し付けられた。

 ……とんだ悪夢だ。こんなもの。


「まさか、怒ってる? だからあんな夢見せたの」


 視線を上げた先、見つけた花に小さく問いかける。


「全部捨てて逃げたから。……約束、破ったから」


 庭にまだ一株だけ咲いていたプリムラが、そよ風にやさしく揺れる。縦に揺れるそれは、まるで頭を下げているようで。


「……母さんのせいなわけあるか。父さんのせいでも、勿論あいつのせいでもない」


 悪いのは全部。全部――――。



「……帰ってきた、か」


 今度は横に揺れた花へ、小さく苦笑いをこぼす。


「大丈夫。わかってるよ。誰も……悪くなんてないんだ」


 母さんも、父さんも、勿論あいつも。


「悪いのは全部、今もずっと怖がってる……どこかの馬鹿だからさ」


 土を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
 同時に鳴り始める携帯さんに、小さく頬を緩めながら手を伸ばした。


「……もしもし? どうしたの――――?」