「ま、だから次もちゃんと会おうねってこと」
外した葵のブラウスのボタンを直しながら、彼はふっと微笑んだ。
「だから葵ちゃん。またね?」
「…………」
「言えない?」
「言えません」
「ふーんそう。そんなに俺を、この作品から追い出そうとしてるの。ま、いいけど。これでもかって言うくらい出てやるから」
無言で俯く葵の頭を撫でながら、トーマはやさしく囁いた。
「……だから、言えないなら、俺がこう言ってあげる」
――次、会える時まで『さようなら』。葵ちゃん。
「――! ……は、いっ。さようなら。と、ま。さん……っ」
「はいはい。俺の広い胸を貸してあげましょう。……おいで」
「……っ」
しばらくトーマの腕の中で泣き続け、腫れた目元を隠しながら、駅まで彼を送り届けた。
見えなくなっていく背中に、『さようなら』と添えて――。



