すべてはあの花のために②


「ま、だから次もちゃんと会おうねってこと」


 外した葵のブラウスのボタンを直しながら、彼はふっと微笑んだ。


「だから葵ちゃん。またね?」

「…………」

「言えない?」

「言えません」

「ふーんそう。そんなに俺を、この作品から追い出そうとしてるの。ま、いいけど。これでもかって言うくらい出てやるから」


 無言で俯く葵の頭を撫でながら、トーマはやさしく囁いた。


「……だから、言えないなら、俺がこう言ってあげる」


 ――次、会える時まで『さようなら』。葵ちゃん。


「――! ……は、いっ。さようなら。と、ま。さん……っ」

「はいはい。俺の広い胸を貸してあげましょう。……おいで」

「……っ」


 しばらくトーマの腕の中で泣き続け、腫れた目元を隠しながら、駅まで彼を送り届けた。

 見えなくなっていく背中に、『さようなら』と添えて――。