「どうだった? いい話聞けた?」
「はい。もう十分過ぎるほど。……ありがとうございましたトーマさん」
「お礼は別がいいんだけどなー」
「え? でもそれは先払いしたって」
「それは俺が話したことに対して。これとは別」
「……えっと、どうしたらいいですか?」
「え? キスしてくれるの?」
「それは絶対しません」
「えー。……ま、いっか。もう一回してるし」
「ええっ?! どういうことですかそれ!」
「人工呼吸してあげただけなんだけど。あなた助けるために。それの何か問題がありますか」
「い、いいえ! ありません!」
にしても、何ならお礼の代わりになるだろうかと、悩んでいた時だった。彼の「こっちきて」への許可をする前に、葵は路地に引っ張り込まれる。
「とっ、トーマさん?」
「今話しかけないで。充電中だから」
ぎゅうっとトーマに抱き締められて、葵は身動きがとれない。
「俺は、忘れないから。絶対に」
「……あなたはどこまで、わたしをお調べに?」
「俺も、全然わからなかった」
「俺も……やっぱり会話聞こえてたんじゃないですか」
「あ」
そうなると、理事長に教えてもらった程度か。それとキクも。一体どこまで口を滑らせてるのか知らないけど。
「トーマさん、お礼。どうしますか?」
「(え? 割と抱き締めるだけでいいと思ってたんだけど……)何かしてくれる? それとも俺がしていいの?」
「……じゃあ、してもいいことにします」
「してもいいの?!」
「え? はい。気が変わらないうちにした方が――ひやっ?!」
いいんじゃないかと言う前に、トーマの唇が葵の耳元に寄せられて。
「……はあ。付いたかな」
「トーマさん?! 何したんですか!」
「キスマーク付けただけだよ?」
「きぃっ?!」
「でもわかりにくいところだから。誰にもバレないよ」
「…………」
「こら。さっきからなんでどんどん離れようとしてるの」
「き、危険を感じたので」
「今頃遅いって。次は絶対に口にするから」
「も、もうしたんじゃ」
「何言ってんの。あんなん回数に入るわけないでしょ。舐めてるの」
「ひえっ」
一陣の冷ややかな風が、葵の首の熱を攫っていった。



