すべてはあの花のために②


「どうだった? いい話聞けた?」

「はい。もう十分過ぎるほど。……ありがとうございましたトーマさん」

「お礼は別がいいんだけどなー」

「え? でもそれは先払いしたって」

「それは俺が話したことに対して。これとは別」

「……えっと、どうしたらいいですか?」

「え? キスしてくれるの?」

「それは絶対しません」

「えー。……ま、いっか。もう一回してるし」

「ええっ?! どういうことですかそれ!」

「人工呼吸してあげただけなんだけど。あなた助けるために。それの何か問題がありますか」

「い、いいえ! ありません!」


 にしても、何ならお礼の代わりになるだろうかと、悩んでいた時だった。彼の「こっちきて」への許可をする前に、葵は路地に引っ張り込まれる。


「とっ、トーマさん?」

「今話しかけないで。充電中だから」


 ぎゅうっとトーマに抱き締められて、葵は身動きがとれない。


「俺は、忘れないから。絶対に」

「……あなたはどこまで、わたしをお調べに?」

「俺も、全然わからなかった」

「俺も……やっぱり会話聞こえてたんじゃないですか」

「あ」


 そうなると、理事長に教えてもらった程度か。それとキクも。一体どこまで口を滑らせてるのか知らないけど。


「トーマさん、お礼。どうしますか?」

「(え? 割と抱き締めるだけでいいと思ってたんだけど……)何かしてくれる? それとも俺がしていいの?」

「……じゃあ、してもいいことにします」

「してもいいの?!」

「え? はい。気が変わらないうちにした方が――ひやっ?!」


 いいんじゃないかと言う前に、トーマの唇が葵の耳元に寄せられて。


「……はあ。付いたかな」

「トーマさん?! 何したんですか!」

「キスマーク付けただけだよ?」

「きぃっ?!」

「でもわかりにくいところだから。誰にもバレないよ」

「…………」

「こら。さっきからなんでどんどん離れようとしてるの」

「き、危険を感じたので」

「今頃遅いって。次は絶対に口にするから」

「も、もうしたんじゃ」

「何言ってんの。あんなん回数に入るわけないでしょ。舐めてるの」

「ひえっ」


 一陣の冷ややかな風が、葵の首の熱を攫っていった。