すべてはあの花のために②


「少しだけ、いいでしょうか。難しいようでしたら遠慮なく断ってくださって構わないので」

「なんだ?」

「あなたも、皇に踏み込むことはできますか」

「……俺は……」

「もし仕事がなくなるようであれば、わたしがなんとかします。それぐらいならわたしにもできるので」

「ふっ。頼もしいな」

「……まあすべては、アキラくんのことが解決したら考えることにしましょうか」


 葵の言葉に、カエデは真剣な眼差しで尋ねた。「できるのか」と。


「わかりません」

「即答かよ」

「やってみないことには。でも……皆様、アキラくんのご家族がお好きみたいでよかったです」

「そうだな。それは変わりない」

「でも『皇自体は嫌いだ』と」

「はっ。……ああ、そう言ってくれても構わない」


 ニヒッと歯を見せて、悪戯っぽく笑う。きっとこれが、彼の本音で素なのだろう。


「わかりました。では最後に、……旦那様はご健在でしょうか」

「ああ。昔よりは話せるようになったよ」

「それはよかった。もしよろしければ、ご家族の写真をお借りできますか?」

「あ? ああ、ちょっと待ってろ」


 そう言って彼は首からロケットを取り出す。


「えっ。こ、これ。お借りしてもいいんですか?」

「ああ、お嬢ちゃんだったらいつでも貸してやるよ」

「ありがとうございます。必ずお返しします」


「よろしく頼むぞ」と、大きな手が頭の上に乗っかった。期待してくれているのか、首が折れそうなほど重たかったけれど。


「……って、あれ?」

「ん? どうした」

「すみません。予想が違っていたので、今ちょっと慌ててます。わたしは、お父様かお母様、どちらかは外国の方ではないかと思ってたので」

「どうしてそう思った」

「それは……『その人』に関係あると思ったので」


 そう言うと、彼はすっと目を細めた。「やっぱりお嬢ちゃんは知ってんだな」と、やさしい表情で。

 ……だったら、『その人』にアキラを説得してもらえば、きっとなんとかなるだろう。


「カエデさん本当にありがとうございました。トーマさん? 終わりましたので入ってきていいですよ」