「少しだけ、いいでしょうか。難しいようでしたら遠慮なく断ってくださって構わないので」
「なんだ?」
「あなたも、皇に踏み込むことはできますか」
「……俺は……」
「もし仕事がなくなるようであれば、わたしがなんとかします。それぐらいならわたしにもできるので」
「ふっ。頼もしいな」
「……まあすべては、アキラくんのことが解決したら考えることにしましょうか」
葵の言葉に、カエデは真剣な眼差しで尋ねた。「できるのか」と。
「わかりません」
「即答かよ」
「やってみないことには。でも……皆様、アキラくんのご家族がお好きみたいでよかったです」
「そうだな。それは変わりない」
「でも『皇自体は嫌いだ』と」
「はっ。……ああ、そう言ってくれても構わない」
ニヒッと歯を見せて、悪戯っぽく笑う。きっとこれが、彼の本音で素なのだろう。
「わかりました。では最後に、……旦那様はご健在でしょうか」
「ああ。昔よりは話せるようになったよ」
「それはよかった。もしよろしければ、ご家族の写真をお借りできますか?」
「あ? ああ、ちょっと待ってろ」
そう言って彼は首からロケットを取り出す。
「えっ。こ、これ。お借りしてもいいんですか?」
「ああ、お嬢ちゃんだったらいつでも貸してやるよ」
「ありがとうございます。必ずお返しします」
「よろしく頼むぞ」と、大きな手が頭の上に乗っかった。期待してくれているのか、首が折れそうなほど重たかったけれど。
「……って、あれ?」
「ん? どうした」
「すみません。予想が違っていたので、今ちょっと慌ててます。わたしは、お父様かお母様、どちらかは外国の方ではないかと思ってたので」
「どうしてそう思った」
「それは……『その人』に関係あると思ったので」
そう言うと、彼はすっと目を細めた。「やっぱりお嬢ちゃんは知ってんだな」と、やさしい表情で。
……だったら、『その人』にアキラを説得してもらえば、きっとなんとかなるだろう。
「カエデさん本当にありがとうございました。トーマさん? 終わりましたので入ってきていいですよ」



