すべてはあの花のために②


 ――だーんっ!

 カエデの頭にはハテナがいっぱいである。葵が勝手に、握り合った手で腕相撲をしたから。


「……は?」

「あれ? カエデさん腕相撲弱いんですね」

「いやいやお嬢ちゃん。その勝負をするって言ったわけじゃねえんだけど」

「知ってますよ?」

「は? じゃあどういう意味で――」

「わたしは何があっても負けないので、ということです。たとえズルしたって何したって、最後に勝つのはわたしです」

「……は」


 その呆れた笑いを皮切りに、カエデはとうとう大爆笑し始めてしまった。
 葵はというと、何せ大真面目にこのことを言っているので、どうして笑われているのかわけがわからない。


「お嬢ちゃん面白いな。……よし。じゃあ俺も頑張ろうか。それで、俺に聞きたいことって?」

「そうですね。まずは――――」


 そうしてようやく本題に入る。


「わたしはアキラくんとも友達なのですが。彼の様子が最近おかしかったので、心配になって今回こちらへ参りました」

「それで? アキの奴がどうおかしかったって?」

「わたしは昔のアキラくんを知っているわけではないので、わたしの知っている範囲で言うならば……」


 最近、ぼうっとしていることが多いこと。食事を摂るのも忘れてよく眠ること。そして、惚けていること。


「そうなっている原因を尋ねましたが、彼は教えてくれませんでした。俺にはこうすることしかできないからとだけ。あなたも、彼がそうなっている原因をご存じなんですよね?」

「そうだな」

「どうして彼を止めないんですか」

「俺は雇われている身だ。俺にはどうすることもできない」

「……止めたいとは、思っていらっしゃるんですね」

「できることなら」

「……なら、よかったです」


 少なくともあなたは、味方だとわかったから。


「教えてもらったことがあります」


 小学校を卒業する時、彼はみんなにこう言った。『俺はある時からおかしくなってしまうかもしれないが、見て見ぬ振りをしてくれ』と。そうして彼は、中学に上がってからおかしくなった。


「あなたもご存じですね」

「そうだな」

「今まで食べてこなかった甘いものを食べるようになった。確か中学の検診で、糖尿病になりかけたと聞いたんですけど」

「ははっ。ああ、そんなこともあったな」

「笑い事じゃないですよ! 糖尿病って一度罹ったら治らないし!」

「取り敢えずは大丈夫だったから気にするな」