すべてはあの花のために②


「それで? お嬢ちゃんは俺と何の話がしたいって?」

「葵ちゃん。俺ができるのはここまでだから、あとは頑張ってね」

「お前、そんなキャラだったか?」

「彼女は特別なの」

「ふーん。……デキてんのか?」

「あ、やっぱりそう思う? そうなん――」

「違います」

「冗談なのにぃ。最後まで言わせてくれたっていいじゃあん」


 机に突っ伏して泣き始めるトーマには、ここに連れてきてもらえて感謝しているが。


「すみませんトーマさん。少し、席を外していただけますか」

「確かに俺ができるのはここまでって言ったけど、聞くこともできないの?」

「わたしの手札を、あなたに漏らすことはできないので」

「どうして?」

「悪用されかねないので」

「そんなことしないのに。……ま、屋敷の探検してくるから、終わったら連絡して?」


 もう少し駄々を捏ねるかと思ったけれど、意外にもあっさりと彼は客間を出ていってくれた。


「……別に、いてもよかったんじゃねえか?」

「こちらにも事情がありますので」

「お嬢ちゃんもワケありか」


 そうです――とは、もちろん言えない。だから、笑顔でこう返すだけ。


「お話、進めてもいいですか。カエデさん」

「ははっ! ……気に入った。俺が答えられるなら教えてやるよ」

「ありがとうございます。その前に一つ。あなたはわたし(、、、)をどこまでお調べに?」

「……何のことだ」


 確かに聞いたのは名前だけかもしれない。
 でも少なからず、この皇(、、、)で執事をしている彼のことだ。どこの誰かも知らないような人物を、そうホイホイ家に上げはしないだろう。


「だから、どこまで(、、、、)お調べになられたのかなと」

「……俺が知ってるのは少ないぞ」


 桜の高2。生徒会庶務。それから、あいつらと友達。


「それからキサ嬢を奪還したこと。ここまで。……この際だからはっきり言わせてもらうが、あんたの情報は一切出てこなかった。びっくりするほどな」

「そうですか」

「だから、逆に会ってみるのも手かと思ったんだよ、俺は」

「成る程、わかりました。でも一つも間違ったことはなかったので、それ以上の説明をする必要はないかと」


 それだけを返す葵を、カエデはただ睨み付けるだけ。


「それではカエデさん。お話、させてもらってもいいですか?」

「……ああいいぞ。その代わり、俺もただじゃ転けねえからな。勝負といこうじゃねえか、お嬢ちゃん」

「望むところです」


 そう言って、葵たちは片手を出し握り合っ――――