「それで? お嬢ちゃんは俺と何の話がしたいって?」
「葵ちゃん。俺ができるのはここまでだから、あとは頑張ってね」
「お前、そんなキャラだったか?」
「彼女は特別なの」
「ふーん。……デキてんのか?」
「あ、やっぱりそう思う? そうなん――」
「違います」
「冗談なのにぃ。最後まで言わせてくれたっていいじゃあん」
机に突っ伏して泣き始めるトーマには、ここに連れてきてもらえて感謝しているが。
「すみませんトーマさん。少し、席を外していただけますか」
「確かに俺ができるのはここまでって言ったけど、聞くこともできないの?」
「わたしの手札を、あなたに漏らすことはできないので」
「どうして?」
「悪用されかねないので」
「そんなことしないのに。……ま、屋敷の探検してくるから、終わったら連絡して?」
もう少し駄々を捏ねるかと思ったけれど、意外にもあっさりと彼は客間を出ていってくれた。
「……別に、いてもよかったんじゃねえか?」
「こちらにも事情がありますので」
「お嬢ちゃんもワケありか」
そうです――とは、もちろん言えない。だから、笑顔でこう返すだけ。
「お話、進めてもいいですか。カエデさん」
「ははっ! ……気に入った。俺が答えられるなら教えてやるよ」
「ありがとうございます。その前に一つ。あなたはわたしをどこまでお調べに?」
「……何のことだ」
確かに聞いたのは名前だけかもしれない。
でも少なからず、この皇で執事をしている彼のことだ。どこの誰かも知らないような人物を、そうホイホイ家に上げはしないだろう。
「だから、どこまでお調べになられたのかなと」
「……俺が知ってるのは少ないぞ」
桜の高2。生徒会庶務。それから、あいつらと友達。
「それからキサ嬢を奪還したこと。ここまで。……この際だからはっきり言わせてもらうが、あんたの情報は一切出てこなかった。びっくりするほどな」
「そうですか」
「だから、逆に会ってみるのも手かと思ったんだよ、俺は」
「成る程、わかりました。でも一つも間違ったことはなかったので、それ以上の説明をする必要はないかと」
それだけを返す葵を、カエデはただ睨み付けるだけ。
「それではカエデさん。お話、させてもらってもいいですか?」
「……ああいいぞ。その代わり、俺もただじゃ転けねえからな。勝負といこうじゃねえか、お嬢ちゃん」
「望むところです」
そう言って、葵たちは片手を出し握り合っ――――



