それだと少しおかしな話になる。アキラからみんなが話を聞いたのは、小学校を卒業する時だったと言っていた。
それを何故、その時すでに徳島へ帰っていた彼が知っているのか。
「おかしくなったと言うと少し語弊があるかもしれない。俺が小6の時、秋蘭はいつもそんなに表情が動くわけじゃなかったんだけど、それでもいつもより暗い時があったってだけ。それは多分、寂しいとか悲しい感情に近いと思う」
「……ちなみに、トーマさんは『 』のことについてご存じですか?」
葵は、それをただ聞いてみただけだった。全く期待はせずに。
けれど返ってきたのは、「え? うん。もちろん知ってるけど」という驚きの声だけ。
「し、知ってるんですか?」
「うん。寧ろ、どうして葵ちゃんが知ってるの?」
「あ、アキラくんが、ぼうっとしてる時よく口に出すので」
「……そっか」
トーマは、少しだけ寂しそうに笑った。
「……その、『 』とは、一体何なのでしょうか」
「え? そのままの意味でしょ。どうしてそんなに食い付くの?」
「わたしがその言葉を出したら、……アキラくんが、パニックになってしまって」
「ああ、成る程」
彼のやさしい表情を見ただけでわかる。
やはりアキラにとってその人は、とても大切な人だったのだと。
「トーマさん。その人は今は……」
「……俺が小6の時に、いなくなったんだ。突然ね。所謂行方不明ってやつ」
「いついなくなったんですか? 季節は?」
「確か……春。4月ぐらいだったと思うよ」
「……そう、ですか」
思案に耽る葵に、「何か心当たりあるの」とトーマは尋ねたが、葵はただ緩く首を振るだけ。
「アキラくんが暗い顔をしてたのも、その時期だということですね」
「そうだね。あと、これは関係ないことかもしれないんだけど。……秋蘭は母親を亡くしてるんだ。あいつが中1の時。俺も葬式呼ばれて行ったから」
「……そう、なんですね」
心の中に留めておこう。
……何も、嫌な予感が当たらないことを信じて。



