すべてはあの花のために②


 それだと少しおかしな話になる。アキラからみんなが話を聞いたのは、小学校を卒業する時だったと言っていた。
 それを何故、その時すでに徳島へ帰っていた彼が知っているのか。


「おかしくなったと言うと少し語弊があるかもしれない。俺が小6の時、秋蘭はいつもそんなに表情が動くわけじゃなかったんだけど、それでもいつもより暗い時があったってだけ。それは多分、寂しいとか悲しい感情に近いと思う」

「……ちなみに、トーマさんは『   』のことについてご存じですか?」


 葵は、それをただ聞いてみただけだった。全く期待はせずに。
 けれど返ってきたのは、「え? うん。もちろん知ってるけど」という驚きの声だけ。


「し、知ってるんですか?」

「うん。寧ろ、どうして葵ちゃんが知ってるの?」

「あ、アキラくんが、ぼうっとしてる時よく口に出すので」

「……そっか」


 トーマは、少しだけ寂しそうに笑った。


「……その、『   』とは、一体何なのでしょうか」

「え? そのままの意味でしょ。どうしてそんなに食い付くの?」

「わたしがその言葉を出したら、……アキラくんが、パニックになってしまって」

「ああ、成る程」


 彼のやさしい表情を見ただけでわかる。
 やはりアキラにとってその人は、とても大切な人だったのだと。


「トーマさん。その人は今は……」

「……俺が小6の時に、いなくなったんだ。突然ね。所謂行方不明ってやつ」

「いついなくなったんですか? 季節は?」

「確か……春。4月ぐらいだったと思うよ」

「……そう、ですか」


 思案に耽る葵に、「何か心当たりあるの」とトーマは尋ねたが、葵はただ緩く首を振るだけ。


「アキラくんが暗い顔をしてたのも、その時期だということですね」

「そうだね。あと、これは関係ないことかもしれないんだけど。……秋蘭は母親を亡くしてるんだ。あいつが中1の時。俺も葬式呼ばれて行ったから」

「……そう、なんですね」


 心の中に留めておこう。
 ……何も、嫌な予感が当たらないことを信じて。