「忘れがちだけど、お前まだ高校生だろ。ちょっと弾けて来いよ、あいつらみたいに」
「嫌だよ。俺がはしゃいだら読者さんビックリするでしょ」
「大丈夫。お前随分前から暴走しているから」
「それは葵ちゃんがいたらの話」
「呼びましたか?」
「お。噂をすれば、そのアオイちゃん」
首を傾げると、トーマは「何でもないよ」と笑ってキクにどついていた。
「それはそうと、どうしたの?」
「あ。……えっと、すみませんキク先生。ちょっとだけ席を外してもらってもよろしいですか?」
「いいけど、イチャイチャすんなよ」
「え。嫌だよ。俺はしたい」
「だったらいいですさようなら」
「嘘嘘。葵ちゃん帰ってきて」
「素直にそう言えばいいんですよ」
「お前さん、こいつも操れるのか……」
「ちなみにキク先生も操れますよ?」
「おい菊。それどういう意味だよ」
「アホ。ただ単にパシリってことだよ」
「んじゃごゆっくり」と、キクはいちゃいちゃしにキサのところへと向かって行った。
「それで? どうしたの?」
「あ。……その、トーマさん。ありがとうございました」
「俺何かしたっけ?」
「海で、助けていただいたので」
「ああ。いいよいいよ。無事で何より」
「旅館にも運んでいただいたそうで。何から何まですみません」
「どういたしまして。……それで? 本当の話は何かな」
目論見をきっと初めからわかっていたトーマに促され、葵は彼の隣に腰を下ろす。
「トーマさんは小学生までこちらにいらっしゃったんですよね。今回は、いつまで滞在予定ですか?」
「葵ちゃん、そんなに俺に帰って欲しくないの?」
「……まあ、言うなれば」
「キスしていい?」
それについては全力で「やめてください」と拒否しておいた。
「残念。それで? どうして今回は俺にいて欲しいのかな」
「きっと、わたしと同じだからです」
「え?」
「今回、アキラくんを助けてあげられるのが、わたしたちだけだから」
「……どういうこと」
彼は怪訝に顔を歪める。
だからトーマにも話をした。言い方を間違えてしまったアキラが、みんなに見て見ぬ振りをしてくれと言ったことを。
「……あいつ、そんなこと言ったの」
今はもう大丈夫だ。ちゃんと教えてあげたから。それはもちろんみんなにも。
「ずっと、そばにいるって言ってくれましたから」
――……どういうことになろうとも。



