終業式が終わったその足で、葵はキサとツバサと共に、海水浴用の水着などの買い出しに来ていた。
「あ! これかわいいかもっ!」
「どれどれ……いいんじゃない? 胸のないアンタでも十分かわいく見え――ぐはっ!」
流石にツバサにする勇気ない葵。したのは当然キサである。
「つ、ツバサくん? 生きていたら右手上げてください!」
そう言って彼は左手を挙げたので、両手を合わせておいた。
「ねえあっちゃん。これとこっちだったら、どっちがいいと思う?」
友達と買い物に行くのも初めてな葵は、キサの問いかけに上手く答えられる気がしなかった。
ツバサに助けを求めたかったが、キサの右肘が鳩尾に入ったらしく、お腹を抱えたまましゃがみ込んでいて、しばらく動けそうにない。
どうしようかと思っていると、似合いそうなものが目に入る。
「もっといいのがあったら教えて欲しいな?」
葵の視線に気付いたのか、そう言ってくれた彼女に感謝しながら「だったら」と、それを手に取った。
「……あ、あっちゃん?」
「アンタ、本気で言ってるの?」
いつの間にか復活したツバサも、葵が持ってきた水着に驚きを隠せないようだ。
驚くのも無理はない。何故なら葵が持ってきた水着は、貝殻と紐でできているような水着だったから。
「バカじゃないの。こんなの今時のグラビアも着ないわよ」
「え? そうなんですか?」
「何その初めて知りましたみたいな顔は」
「いえ……ツバサくんは、そういう雑誌を見るんだなと」
「か、カナデが持ってる雑誌に決まってるでしょう!」
「ああ……」と白い目を向ける二人に、ツバサは「……ごめんカナ」と心の中で謝罪していました。勝手に好感度を下げてしまったので。
「まあ、冗談はさておき! 本命はこちらです!」
どや顔の葵がキサたちの前に出したのは、胸元にフリルがついた純白の水着。
「もちろん色物も合うと思うけど、これならば本来のキサちゃんを発揮できると思いますよ!」
二人とも、驚いて口を開けたまま固まっていた。返ってこない反応に不安を感じていたのも一瞬のこと。
「白かあー! 全然考えてなかったー!」
「アンタ以外とセンスいいじゃない。見直したわ」
「あっちゃんありがとー! あたし、これにするよ!」
「え? ほんとにいいの?」
「いいも何も最高だよー! ありがとー!」
嬉しそうに葵が選んだ水着を抱き締めるキサに、葵もそっとありがとうと呟いた。
「さあ、次はアンタね」
「あっちゃんはどんなのがいいかなー?」
「あっ、わたしはさっきの貝殻で――」
いいと最後まで言えなかったのは、二人にダメだと思い切り睨まれてしまったから。
「あ! これいいんじゃない?」
そう言ってキサが手に取ったのは、真っ赤なビキニ。しかし「却下で」と言った声は、ツバサとほぼ同時だった。
「あ、これわたし好きかも」
そして葵が取り出したのは、上から下まで繋がっている紺色の――――
「「それはただのスク水だからっ!」」
「あはっ!」
二人の容赦ない突っ込みが、実はすごく嬉しかった。
「(……すごいなあ)」
((? どうしたの?))
「(こんなことしたことなかったから、最初は今日来るのどうしようかと思ってたんだけど)」
来てよかったと脳内にそっと呟く。
((……あんたそれ、目の前で一生懸命選んでる二人に言ってあげなよ))
「(……うん。そうだね)」
いつか、言える日が来たら……いいな。



