「あーきーらーくーん」
「ん? はーあーいー」
「……やっと、目が合った」
「あ」
「しかも至近距離だ。今度は逃がさないからねー?」
「……ふっ。ははっ」
「だってだって! アキラくんさっさと帰ろうとしちゃうんだもん! わたしまだ話してないのにっ!」
「ぷっ。ああ、そうだな。わるかっ……ぷっ」
「いや、何がそんなに面白かったのかわからないんだけど……まあいっか。アキラくんが楽しかったんならわたしも嬉しいさ!」
そうやって、にかって笑う。チカゼには負けるが、それでも葵の全力で。
「アキラくん。さっきは謝ってくれてありがとう。でも、本当に謝るのはわたしの方なんだ」
「いや、それは違」
「まあ聞きなさい。……わたしがね? そうしてしまうように話をしてしまったんだ。確かに、アキラくんがどうしてそんなことになっているのか、わたしにはわからない。でも、やっぱり知りたいって思うんだ。なんとかしたいなって思うんだ。それが例え――」
……例え、滅多に泣かない自分の友達が、涙を流しながら『見て見ぬ振りをしてくれ』って言ってきたとしても。
「こんな状況になってまではほっとけない。心配にもなるさ。だって友達だし仲間だもん! ……アキラくんはおかしくなっていくのが怖いの? それもあるかもしれない。でも、一番は違うよね。『忘れてしまうこと』が一番怖いんだよね?」
これは、同じようで違うことだ。
「……俺、は……」
「いいから聞てて?」
みんな心配してるよ君のこと。
でも心配していても、君がそう言ってしまったから、何もできないって思ってる。
「けど、アキラくんはわたしに言ったでしょう? こうしてくれるだけでいいんだって」
葵は技を止めて、上から彼を包み込むように抱き締める。
「アキラくん、それはね――」
そばにいてくれるだけでいい――って言うんだよ。
「何が、見て見ぬ振りをしてくれだい。それ、わたしには『ちゃんと見てて』って言ってるようにしか聞こえないよ」
「――ッ」
「みんな、ちゃんと気づいてる。心配もさせてもらえないのはつらいよ。だって友達だもん」
「でもっ」
「わたしがこう言ったのも覚えてるかな? アキラくんを止めるよって。まあわたしはアキラくんから、見て見ぬ振りしろだなんて言われてもないので? 思う存分やらせてもらおうと思います。……って、言いたかっただけなのにアキラくん逃げるんだもん。言い逃げはよくないぞ!」
「ああ。……そうだな。本当に心強いよ」



