キクのプレゼントを購入した二人は、観光せずにただ砂浜を歩いた。
「アキラくん。ごめんね」
「謝るのは俺の方だ。葵、ごめんな」
「でも、わたしが悪いから」
「いいや、俺が悪かったんだ」
しばらく謝罪の応酬が続いた。
「どうして、アキラくんはわたしに謝るの?」
「それは……俺が、お前を海に落としたようなものだから」
「本当にそうならそれはアキラくんが悪いかもしれないけど、今回は違うじゃん」
「違わない。葵を巻き込んだのは俺だから」
「アキラくん。それは違うよ」
「いいんだ。全部俺が悪いから。だからお前が無事で本当によかった。……さ、そろそろバーベキューの準備手伝いに帰ろう」
この話を、彼はもうするつもりはなさそうだった。
「(いや、違うか)」
ハッキリとは言われていない。
でも彼は、葵が踏み込むことを拒否したのだ。
「(ダメなんだよそれじゃ。何の解決にもなってない)」
踏み込まなければ済む話か? 違うよ。
君は怖がっている。こうなってしまうことも、踏み込んでくることも。
「(だったら、わたしが何とかしてやろうじゃないの!)」
すでに遠くなっている彼の背中を必死に追いかけた葵は、そのままの勢いで――――。
「こんの…………ビビりがあああああ!!」
葵はアキラの背中にドロップキックを食らわした!
攻撃をもろに食らったアキラは「ぐえっ!」と言いながらずべべべーん! っと砂浜にしっかりと跡を付けながら吹き飛ばされた。結構な勢いだったのか、軽く数十メートルは飛んだ。
吹き飛ばされたアキラはピクリとも動かなかった。
「アキラくん大丈夫!? 生きて――――」
未だに頭が砂に埋もれているアキラのところへ、猛ダッシュで向かった葵。生きてるかどうか確認しようと思ったら、ぐいっと腕を引っ張られ、今度は葵が砂の上に俯せに。そして何故か彼は、そのまま背中に乗ってきて。
顎に両手を添えられた瞬間、後ろにぐいーッ! と引っ張られた。
「痛たたたたたたあッ!!」
アキラも手加減なかった。しかも無言でしてくるから余計怖い。
でもプライドの高い葵は折れることなく、渾身の力で両手を地面に突っ張り腰を浮かせる。その状態でアキラを吹き飛ばした後、彼が仰向けになったところを彼の右脇の方から左肩にかけて押さえ込みにかかる。これを袈裟固めという。
「あきらくんっ!」
「ぐえー」
「いやいや、そんなにキツく掛けてないでしょうが」
「はは。……ああ、そうだな。ははっ」
何故か彼は、葵の下で笑っていた。
「ど、どうしたんだアキラくん。ネジ取れた?」
「ああ。そう、だなっ。……ふっ。多分、ぶっ飛ん……はは!」
ずっと、彼は笑っていた。……久し振りに、見られた。



