楽しんでデートしているところ申し訳ないがと、紀紗から菊を借りていく。
「どうした。何かあったのか」
「そう。そのまさかでね」
わかる範囲で状況を説明すると、菊はため息を吐きながら頭を抱えた。
「悪い。まさか、そんなことになるとは思わなかった」
「しょうがねえよ。あいつら全員、下手したらそこら辺の大人よりも大人びてやがるからさ」
同じくため息を吐いて、その時のことを話す。
「何の話をしてたのかはわからないけど、秋蘭のあの態度は異常だった」
「あいつもか」
「しょうがない。でもこれは【願い】だから、葵ちゃんにしかできないことだ」
「――! おま、どうしてそれを知って」
「何言ってんの。菊が俺に少し話したって理事長に言ったんでしょ。すぐ向こうから連絡来たよ」
「……てことは、お前は知ったのか」
「いいや。教えてもらったこと以外は」
今回はただ、それが少しでもわかればと思って来ただけだった。それでも、本当に来てよかった。
「……お前にも背負わせて悪い」
「一番つらいのは葵ちゃんだ。理事長もつらいだろうけど、俺は絶対に彼女を救う気でいるから」
「……そうか」
「そしてあわよくば彼氏の座を手に入れる」
「お前、それ言わんかったらよかったのに」
「いいんだよ本気だから。たとえ変なフラグが立とうとも」
「そ、そうか」
そんなことを話していると、あいつらも話し終わったのか、キサに活を入れられている。
『あっちゃんがそんな顔して欲しいと思ってるのか! ああん?!』
……って、言ってる気がする。
流石は女王様。相変わらずお強いことで。
遠目に、あいつ以外はシャキッとしたのが見える。けれど……。
「(……何考えてるんだあいつ)」
取り敢えず海水浴は中断し、今日のところは旅館へ帰って彼女の側にいることにしたらしい。みんなは旅館の方へと歩いて行く。
「……なあ菊」
「ん?」
「あいつらも、つらいなと思ってさ」
「ああ。……でも、それも願いだ」
「わかってる」
そう言って、俺らも旅館へ歩き出した。



