「何でいきなりそんなことを言う」
「わたしの名前、ちゃんと知ってるよね?」
「ああもちろん」
「じゃあ呼んでみて?」
「…………」
「呼べない?」
灰色の瞳が、困惑に滲む。
「いや、そんなことは……」
「じゃあ呼べる?」
そして困惑から、焦燥へと変わる。
「わからない? それとも、最初から知らない?」
「……どう、して……」
「それとも、……忘れちゃったかな」
「――っ!」
焦燥から、不安へ。
「もう、わたしのことは忘れちゃったかな」
「……何を、言って……」
「みんなと違って、アキラくんと一緒にいる時間は少なかったから。忘れられてもしょうがないのかな」
「だから、何を言っ――」
「じゃあ呼べる?」
そして、不安から恐怖へ。
彼は、それを隠すように俯いた。
「もうわかんない。忘れちゃったんでしょう」
「……もう、時間はないのか……」
その呟きは、全てを諦めているようだった。



