すべてはあの花のために②


「何でいきなりそんなことを言う」

「わたしの名前、ちゃんと知ってるよね?」

「ああもちろん」

「じゃあ呼んでみて?」

「…………」

「呼べない?」


 灰色の瞳が、困惑に滲む。


「いや、そんなことは……」

「じゃあ呼べる?」


 そして困惑から、焦燥へと変わる。


「わからない? それとも、最初から知らない?」

「……どう、して……」

「それとも、……忘れちゃったかな」

「――っ!」


 焦燥から、不安へ。


「もう、わたしのことは忘れちゃったかな」

「……何を、言って……」

「みんなと違って、アキラくんと一緒にいる時間は少なかったから。忘れられてもしょうがないのかな」

「だから、何を言っ――」

「じゃあ呼べる?」


 そして、不安から恐怖へ。
 彼は、それを隠すように俯いた。


「もうわかんない。忘れちゃったんでしょう」

「……もう、時間はないのか……」


 その呟きは、全てを諦めているようだった。