「カ~ナデくんっ!」
「――! な、なあに~? アオイちゃん?」
「笑って!」
「……へ?」
「いいから笑って!」
「え? 何言ってんの、この子」
カナデはよくわからなくてツバサを見るが、『ほら。はよ笑えや』って顔しか返ってこない。てかオカマ怖い。
「こ、こう……?」
頑張ってやってはみるが、そんないきなり笑えと言われても。
「ちっがーう!」
そう言って、葵はカナデをくすぐりにかかる。
「えっ。アオイちゃん?」
葵がカナデの脇に手を突っ込んで「こちょこちょ~」って言いながらくすぐってくる。
「(残念ながら、俺にそこは効かないんだけど……)」
でも、なんだか一生懸命な彼女にクスッと笑うと、どんどんおかしくなって大きな笑いになる。
「ははっ。……もう、アオイちゃん。何してるの……ははっ」
そう言うと、葵は本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔に思わず赤くなりそうなのを手で隠しながら顔を逸らそうとすると、逸らした先にはにやにや顔のアカネ。
「(もうやだっ!)」
結局のところ、両手で顔を隠した。
「ツバサくん見た? わたしの任務は完了したぞ!」
「はいはいよかったわね」
そう言ってツバサのところへ行き、よしよししてもらってる嬉しそうな葵を見て、思わずむっとするカナデ。
「カーナデくんっ」
「ん? なーあーにー?」
「一緒に帰ろ!」
「! ……ごめん」
カナデは頑なに拒み続ける。
「そっか。わかった!」
だから葵はカナデを置いて、ツバサとアカネの帰り支度を促す。
「それじゃあねー! カナデくん!」
「え? ……い、いいの?」
だから、わざわざここまで来たんでしょうと、意味が籠もる。
「うん! だってそんなにわたしと帰るのに苦しそうな顔されたら、無理させらんないよ~」
「! ……ご、ごめんアオイちゃん。そんなつもりは……」
「うん。でもね? カナデくん」
その声に、ゆっくりとカナデは顔を上げる。葵は真っ直ぐに、カナデの瞳を見つめ返した。
「一緒に帰るのは無理でも、後ろからついてきてね?」
そう言って葵はにっこり笑った。
「(それって結局一緒じゃん)」
でも、ツバサとアカネもにっこり笑っている。
「はああーッ」
みんなの顔を見て、カナデは大きく息を吐いた。まるで、何かを決意したような。
「ごめん。ちょっとだけ、アオイちゃんと二人にさせてくれない?」



