「(でもここ最近で、酷い状況になってしまったと、そういうことか)」
小さく納得しながら、知ってるのはここまでかと尋ねると、彼は頷きながら〈ごめんね? あんまり役に立ててなくて〉と、書いてくるから。
「そんなことないよ! わたしは全く知らなかったもん。一歩どころか百歩ぐらい前進できたよ!」
「…………」
笑顔でそう言ってあげると、彼は一度にっこりと笑った後、何故か急に真剣な表情に。どうしたのかなと思っていると、彼は自分の左耳を触り始めたので、葵も自分の左耳を触ってみる。
すると突然、腕をぐいっと引かれた。慌てる間もなく、頬に温かいぬくもりが降ってくる。
「……ほ、ほへ?」
それがすっと離れたかと思ったら、今度は笑顔で左耳をつんつんと突かれたんだけど……葵はそれどころじゃなかったので、取り敢えず鼻をしっかり押さえておいた。
〈寒くなってきたからそろそろ帰ろっ 一緒にお風呂入る?〉
「警察のお世話にはまだなりたくないですうーッ!」
そう叫んだけれど、彼はまだ悪戯っぽい顔をして、くいくいっと服を引っ張りながら近づいてくるもんだから、取り敢えず葵は旅館まで必死に逃げたのだった。



