「あおいチャン。ちかクンが、柔道系の経験者がいたって言ってたんだ」
「うん。いたよ」
アカネの問いかけに、なるべく葵は平常心で答える。その質問にはその解答で。
「……じゃあ、そいつらは『どんな柔道』をしてた?」
でも、この質問には逃げられそうにない。
できることなら、彼には黙っておきたかったのだけれど。
「そうだね。『アカネくんのものと似てた』で、いいかな」
葵の答えに、アカネは何とも言い難い顔をする。
「茜、どういうことだ」
その質問の意図を聞こうと、アキラがアカネに問いかける。葵は、自分から標準がズレたことに、隠れて小さく安堵していた。
「うん。実はね、昨日言いかけたことなんだけど……」
「アオイちゃん、まだ終わってないでしょ」
今まで会話に入ってこなかったカナデが、嫌なタイミングで入ってくる。思わず渋い顔をすると、みんなの視線が一斉に集まってしまった。
「言わないなら俺が言うよ」
ただ少し口を閉じていただけなのに。どうやら考える時間もくれないらしい。せっかちさんめ。
「ちゃんと話すよ」
「俺が言わなかったらそのままにしようとしたくせに」
「タイミング計ってただけだよ」
「嘘言いなよ。どうせ、バレなきゃラッキーって思ってたんでしょ。みんな待ってるよ。さっさと話せば」
突き放すような言い方に、葵は思わず怪訝な表情を浮かべた。そこまで彼が怒っている理由に、皆目見当が付かない。
「葵、もう隠し事はなしにしよう。包み隠さず話してくれ」
「(と言っても、もうすでにしてるんですけど……)」
ちらりと横目でアカネを見ると、彼もちょうどこちらを見たようで、お互い小さく苦笑い。どうやら彼は、まだあのことをみんなに言っていないみたいだ。言うつもりもなさそうなのが、唯一の救いかもしれない。
「(アカネくん、それだけは絶対言わないでね)」
葵は意を決して体育館裏での出来事を話し出す。
「聞いてて、楽しいものじゃないだろうけど……」
「大丈夫だよ? あっちゃんが苦しかったなら、みんなで分け合えば軽くなるよ?」
「(あ……)」
言い方一つで、とても気持ちが温かくなる。
文字で伝えてくれる彼のものと似ていて、少し心がほっこりした。



